第2の教訓のタイトルは「問題は政治の量ではなく質だ」という直接的なものだ。ジョンズ・ホプキンズ大学が2019年に公表した「世界健康安全指標」で、米国は6項目中4項目でトップだった。

予防、早期発見と報告、十分で堅牢な保健システム、世界基準への準拠の4項目である。この結果は正しいように響く。実際米国には世界のもっとも優れた製薬会社のほとんど、研究をする大学や研究所、それに保健機関がある。しかし2020年3月には、この強みと思われたものがひどいジョークに思えるようになった。Covid-19が米国全土に広がり、政府の反応は遅く、弱く、そして誤っていたからだ。(29ページ、訳は引用者、以下同様)

米国は世界でも上位に入る死者数と医療崩壊を経験することになる。その一方で中国は強権的に感染を制圧しようとした。さらに中国は世界から求められている情報を出そうとせず、一時はCovid-19に関する科学記事の出版さえ制限した。

「エコノミスト」誌は、記録が残っている1960年以降の地方流行病を調査し、独裁政権がアウトブレークへの対処を誤ることが多いことを発見した(33ページ)。アマルティア・センが、独裁政権より民主主義政府のほうが飢饉により良く対処できることを発見したのと同じメカニズムだろう。中国のやり方について、ザカリアは「他にも方法があるのではないか」と疑問を投げかける。

彼は、Covid-19に対する対処がうまくいっていると考えられる他の諸国と米国を比較し、問題は「能力のある、うまく機能する、信頼されている国家、つまり政治の質だ(36ページ)」だという。

過去に国家は戦争をしてきたが、戦費を調達するには税に頼るしかなかった。小さな国である英国がなぜ世界の覇権を握れたかというと、英国民が高額の税金を支払ってきたからだという。1700年代の終わり、平均的なブリトン人の支払っていた税金はフランス人の3倍だったという(41ページ)。今後、各国はCovid-19対策で使ってきた金の回収をしなければならなくなる。それは増税という形を取らざるを得ないのだが、社会がそれに耐えられるかどうかでその国の将来が決まるのかもしれない。

なぜ米国政府はじゅうぶんに機能しないのか。ザカリアは、米国はレーガン以来、政府を小さくしようとする人々によって運営されてきたからだという。

公務員は以前のような特権的なキャリアではなくなった。雇用は凍結され、予算カットは効果を上げてきた。ブルックリングズの分析が指摘しているように、「現在から2025年までの間に[連邦政府職員の]3分の1が定年退職の時期を迎え、30歳以下の職員は6%しかいない」。レーガン以来米国民は、政府が解決する問題より政府が引き起こす問題のほうが多く、国の機関は肥大化しすぎており、ほとんどの業務は民間でおこなうのが最善だと考えるようになった。(46ページ)

現在の米政府の弱体と機能不全は、政府を破壊しようと努めてきた「成果」だとザカリアはいう。彼は米国の医療情報処理の不具合を書き立てている。電子化と連携ができていず、電話、電子メール、郵便、さらにはファックスまで使ってと書いているのだが、日本はファックスが主流だったりする。ザカリアが非難する米国の現状の2歩も3歩も後を日本は歩んでいる。

米国民は民間を重視し、政府を解体しようとしてきた。現状はその結果だという。日本国民は政府を解体しようとしてきたわけではない。それでもこのありさまだ。なぜかはわからないが、少なくとも日本国民は政府を育てようともしてこなかった。それは言えるのではないだろうか。