まえがきでザカリアは、冷戦後の世界は米国中心の世界になったと述べている。これはソビエト連邦が崩壊して社会主義を捨て、ロシア共和国になったことを考えれば正しいと言えるだろう。だが世界はリスクを持ち続けており、バルカン戦争、アジアの経済危機、9.11攻撃、世界経済危機が起こり、Covid-19が起こった。これらの事件はすべて「非対称性の」ショックだという。

これらは小さな事件として始まったが、最後には世界中に衝撃を与えた。特に永続的な影響をもたらすと判断される3つの事象 — 9.11、2008年の経済危機、そしてCovid-19 — について[非対称性が]言える。(9ページ、訳は引用者、以下同様)

9.11は、西側社会が今まで事実上無視してきたイスラム社会と西側社会との関係を強制するものだった。西側社会は、イスラム原理主義の過激派や中東の複雑な緊張状態に巻き込まれざるをえなくなった。さらに米国はアフガニスタンとイラクに派兵する。その結果として生じた流血、紛争、難民は今もまだ収まらない。

2008年の経済危機は、歴史の中で繰り返されている現象のひとつにすぎない。しかし、米国から始まり全世界に1930年代の大恐慌以来の下落をもたらしたこの経済危機は、政治的には複雑な結果を生んだとザカリアは言う。

この破綻の根本は民間部門のやりすぎにあるのだが、多くの国では、国民は経済的な左寄りの行動をとらなかった。文化的に右寄りの行動をとったのだ。経済的な不安は文化的不安を生み、移民への敵意と懐かしい過去への懐古的な回帰願望を生んだ。右派的な大衆迎合主義ポピュリズムが西側諸国全体で強まった。(10ページ)

Covid-19は、今まさに私たちが経験しつつある現象だ。これにより、世界が大きく変わるという人もいれば、あまり変わらないという人もいる。米国が当初Covid-19の制御に大きく失敗したことが、米国の覇権にどのような影響を与えるのか、また中国はCovid-19をどのように利用していくのか、まだ何とも言えないことが多い。だが、これだけの大事件であるから、何らかの跡を残すに違いない。そしてそれを変革の契機にするのか、あるいは無視するのかは、私たち自身の気持ちにかかっていると言える。