(承前)
医療は侵襲的であることが多い。手術が侵襲的であるのはもちろんだが、投薬でも本来は毒物であるものを治療薬として使ったりするし、副作用が生じることもある。そのようなものを使わなくても、患者は診断を受けただけで傷つくことすらある。検診は何の症状もない人におこなうものだから、その利益と不利益をじゅうぶんに勘案しなければならない。

この記事で挙げられていた4つの不利益(発言は宮城学院女子大学教授の緑川早苗)のうち、甲状腺癌を診断された者にとって  「②病気に対する不安などの精神的負担」と「④「癌患者」として生きることになるがゆえの社会的な影響」は非常に深刻だ。タイトルの「過剰診断で悲しむ人」は、まさにこの「見つけられなくてもよかった癌を見つけられてしまった人たち」だ。

癌があると言われたときのショックについてはあたらめて述べるまでもないだろう。子ども本人だけではない。親も非常に強いショックを受ける。その後の子育てが影響を受けないはずがない。それまでと変わらぬ子育てを継続することは難しいだろう。その親を見て、子どもはなおさら強い衝撃を受ける。

癌患者だと言われることで、周囲の目も変わる可能性がある。同情されるか、よそよそしくされるか、ざまざまな場合があるだろうが、子どもたちも親たちも、それに耐えねばならない。そのような中で自分を保っていくのはさぞかし大変なことだろう。

さらに、癌患者になったことで生命保険に入れなくなる可能性が高い。最近は癌の既往がある患者でも入れる生命保険が売り出されているが、取り扱いが不利になることは避けられない。これは子どもたちにとって非常に大きな不利益だ。

甲状腺スクリーニングは学校に通学している児童生徒にとっては避けられない強制的なものだ。だが、高等学校を卒業してしまうと甲状腺スクリーニングを受けなくなる人も多いという。ただ面倒だからというのではなく、不利益を自覚しているからかもしれない。

参加者のひとりである福島レポート編集長の服部美咲によれば「福島県民のうち,甲状腺検査を受けることの不利益を理解しているのは2割程度だと言われています」ということだ。甲状腺スクリーニングを続けるか否かには賛否両論があるかもしれない。しかし、対象者に不利益をきちんと伝え理解してもらうことには異論がないはずだ。早急に変更すべき点として緑川は次の4点を挙げる。

  1. 検査対象者の限定と任意性の担保
  2. 検査の不利益についての情報提供
  3. 検査方法の見直し
  4. 甲状腺癌と診断された方への対応

強制ではなく自由選択制にすること、不利益を知らせること、穿刺吸引細胞診をおこなわないこと、癌と診断された人に精神的(場合によっては経済的)サポートをおこなうこと、このいずれも重要だが、特に2は今すぐにでもできることのはずだ。