第9章「なぜシマウマは家畜にならなかったのか」は、動物の家畜化と、アフリカの哺乳類の生態について詳しく説明していて面白かった。

家畜化できている動物はどれも似たものだが、家畜化できていない動物はいずれもそれぞれに家畜化できないものである。(289ページ)

この文章は、『アンナ・カレーニナ』の冒頭の「幸福な家庭はどれも似たようなものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである」を言い換えたものだ。つまり、幸福になるにはある条件が揃わなければ難しいように、動物を家畜化する場合にも、ある条件が揃わなければ家畜化はできない。これを著者は「アンナ・カレーニナの原則」と呼んでいる。

この章では、農業生産などに重要な働きを示す大型の哺乳類に絞って議論を深めている。取り扱われるのは「メジャーな5種」である牛、羊、山羊、豚、馬が中心となる。ちなみに、家畜化された動物はこの他に9種類あり、著者は「マイナーな9種」と呼んでいる。ヒトコブラクダ、フタコブラクダ、ラマ/アルパカ、ロバ、トナカイ、水牛、ヤク、バリ牛、ガヤルなのだが、私はこれらの動物についてあまりよく知らない。特にバリ牛とガヤルは初めて聞く名前だった。

メジャーな5種について、野生祖先種を挙げておく。

  1. 羊  野生祖先種:西アジアおよび中央アジアのムフロン。
  2. 山羊 野生祖先種:西アジアの山岳地帯に生息するパサン(ノヤギ)。
  3. 牛  野生祖先種:現代では絶滅してしまったオーロックスで、かつてはユーラシアおよび北アフリカに分布。
  4. 豚  野生祖先種:イノシシ。ユーラシアおよび北アフリカに分布。(これだけが雑食性)
  5. 馬  野生祖先種:南ロシアに分布していた、いまでは絶滅してしまった野生馬。
表9-1「大型草食哺乳類の家畜」(295ページ)より抜粋

家畜化に関連する因子は以下の6つである。本文から抜粋する。

  1. 餌:肉食動物は餌の効率が悪いので、家畜化には向かない。(312ページ)
  2. 成長速度:成長に時間がかかりすぎる動物は家畜化に向かない。ゴリラやゾウが家畜化に向かない動物の例として挙げられている。(313ページ)
  3. 繁殖上の問題:チータは求愛行動が複雑で、人間の眼の前でセックスをするのを好まないという。チータを家畜化しようとしう試みは何千年も前からおこなわれてきたというが、成功していない。(314ページ)
  4. 気性の問題:クマは雑食で、成長も早く、肉も美味であるが、気性が荒いので飼育できない。アフリカ水牛も「アフリカ大陸の大型哺乳類のうちで、もっとも危険であるだけでなく、もっとも予測のつかない動きに出ることで知られている(316ぺージ)」という。飼育には命の危険がつきまとう。カバも危険で「毎年、もっとも多くの人を殺しているのがカバ(317ページ)」だという。
    オナガー[ロバの近縁種]より気性が家畜化に向いていないのが、アフリカに生息している4種類のシマウマである。[中略]シマウマは歳をとるにつれ、どうしようもなく気性が荒くなり危険になる(馬のなかに気性が荒いものがいることは否定しないが、シマウマとオナガーは、種全体がそうなのである)。シマウマにはいったん人に噛みついたら絶対に離さないという不快な習性があり、毎年シマウマに噛みつかれて怪我をする動物監視員は、トラに噛みつかれる者よりずっと多い。(318ページ)
  5. パニックになりやすい性格の問題:
    神経質なタイプの動物の飼育は、当然のことながらむずかしい。彼らは囲いの中に入れられるとパニック状態におちいり、ショック死してしまうか、逃げたい一心で死ぬまで柵に体当たりを繰り返すようなところがある。(319ページ)
  6. 序列性のある集団を形成しない問題:犬や馬は序列を形成するので、人間をリーダーとみなすとその指示に従うようになる。群れを作らず、自分だけの縄張りを持って単独行動する動物は家畜化が難しい。そのような動物で家畜化されたのは猫とフェレットだけだという。
これを読んでシマウマに4種類(ウィキペディアによれば3種類)あることを初めて知った。