家畜は、社会の発展に大きく影響している。特に馬と牛は、食料となり、骨や皮が生活の中で大きな役割を果たすばかりでなく、運搬や農耕などの労働力としても重要である。また馬は軍事力としても重要だった。そしてそのどちらもがユーラシア大陸原産である。

さらに著者は、家畜の「効能」として、病原菌の人への伝播を挙げる。

征服戦争において馬と同じく重要だったのは、家畜から人間にうつった病原菌の果たした役割である。天然痘、麻疹(はしか)、インフルエンザなどの伝染病は、人間だけが罹患する病原菌によって引き起こされるが、これらの病原菌は動物に感染した病原菌の突然変異種である。家畜を持った人びとは、新しく生まれた病原菌の最初の犠牲者となったものの、時間の経過とともに、これらの病原菌に対する抵抗力をしだいに身につけていった。すでに免疫を有する人びとが、それらの病原菌にまったくさらされたことのなかった人びとと接触したとき、疫病が大流行し、ひどいときには後者の99パーセントが死亡している。(上161ページから162ページ)

著者は、「第二次世界大戦までは、負傷して死亡する兵士よりも、戦場でかかった病気で死亡する兵士のほうが多かった」とし、「過去の戦争において勝利できたのは、たちの悪い病原菌に対して免疫を持っていて、免疫のない相手側にその病気をうつすことができた側である」と結論している(上361ページ)。この本に挙げられている、特にアメリカ大陸においてヨーロッパ人が持ち込んだ疫病の蔓延の様子はすさまじい。アメリカ大陸の住民たちにとって、ヨーロッパ人はまさに悪魔の使いだっただろう。

著者は病原菌についても、進化の側から論じている。野生動物の病原菌は進化して人間に感染するようにもなったのだ。進化のきっかけは家畜化で、家畜化され人間と接することが多くなったので、病原菌は身近に数多くいる人間を宿主とするように進化した。著者はこれを第11章で要領よく説明している。

少し前にはヒト免疫不全ウイルス(HIV、エイズウィルス)が動物から人間に宿主を変えた。その後もSARS(2002年)、新型インフルエンザ(2009年)、MERS(2012年)と新しいウィルス感染症が登場しており、もちろん最後は現在蔓延中のSARS-CoV-2(疾患名はCOVID-19)である。ただし、これらはウィルス性疾患で、ウィルスは厳密に言えば菌ではない。今後も病原体の進化により、人間は新しい病気に悩ませられ続けるのだろう。

H・G・ウェルズは『宇宙戦争』(1898年)で、地球を侵略した火星人が地球の病原体によって死滅するという結末を書いた。彼はこの結末をどのようにして着想したのだろうか。

白人は、「好戦的」なアメリカ先住民に、天然痘の患者が使っていた毛布を贈って殺すということもしている。(上365ページから366ページ)

このような記録を読んで着想したのだろうか。