第2章は「経営の教室」で、経営管理大学院准教授の山内裕が担当する「なぜ鮨屋のおやじは怒っているのか」だ。サービスの基本について考えさせられる、非常に良い講座だった。

サービスというと、愛想が良いことや、痒いところに手が届くようなことを考えることが多いが、山内は「鮨屋のおやじが頑固で無愛想だから、行きたくなる(077ページ)」と述べる。たとえばカジュアルなイタリアンの店でよくわからないカタカナの料理名が列挙されているのも同様のことなのだそうだ。

実は、サービスにおいて、提供者側が客を満足させようとすると、かえって客は満足しなくなるというパラドクス(逆説)が起こります。「満足させよう」とするサービス側の気持ちが透けてみえてしまうと、客は満足しないのです。同じように、相手を笑わせよう、信頼させようとすればするほど、客の気持ちは逆の方向へ向かってしまいます。(078ページから079ページ、太字は原文)

この原因は、サービス提供者と客との間に生まれる上下関係だという。提供者が相手に従おうとすれば立場が弱くなってしまい、客のほうは、自分より下の立場の人からのサービスだと価値が低いように感じられてしまうのだ。

医療の世界では、医療を直接提供する医師のほうに圧倒的な力があり、患者との間の上下関係が覆ることは少ない。だが、事務職員との間にはそのような上下関係が生じる可能性は高い。現在問題となることが多いモンスター・ペイシェントも、医療側が「満足させよう」と努力するために生まれている可能性が高い。医師や看護師は愛想が良くてかまわないが、受付など事務職は親切丁寧であっても、ある意味で毅然とした雰囲気が必要なのかもしれない。

ただし、私にも心当たりのことはある。若い頃の話だが、患者が間違った方向に進みそうなために一心に説明したのに、まったく信用してもらえなかったことがある。おそらく、信頼してもらおうと努めたために、かえって患者や家族の心は離れていったのだろう。その患者はその後、予想どおりの厳しい状態となった。今でも思い出すとやりきれない思いがこみ上げる。