マグヌス・ヒルシュフェルト『戦争と性』(明月堂書店)を読了した。宮台真司が2013年10月にこの本について講演しており、その内容が巻頭に解説として収録してある。宮台は社会学者である。

編集部解題によれば、この本は1956年に刊行された『戦争と性』(河出書房、世界性学全集第1巻)の復刻版だ。宮台の解説によれば原著は4巻本で、この本は第1巻の翻訳であり、編集部解題によれば原著には数百枚の挿絵や写真があったものの1956年版にはその中の244枚しか掲載されず、さらにこの復刻版では「残念ながら[中略]頁数の都合など諸々の事情により、そのほとんどをカットせざるを得なかった」そうだ。したがって、この本で原著の全貌を知ることはできない。

文章は読みにくい。ドイツ語の構文をそのまま引き継いだ日本語になっていることが第一の理由だと思う。訳者は「訳序」で「できるだけ正確で分かりやすい日本語に移した(34ページ)」と述べている。たしかに文法的に正確に訳してあると思えるし、訳語の選択にも苦労しただろうと思う。だが、日本語としては論理を追いにくい文章になってしまっている。

読みにくさの第二の理由は、性に関する日本語の語彙が貧弱であることと、戦争に関する用語に私が馴染んでいないことである。たとえば、性的関係を持つことによって何がしかの利益を得ることに関する用語が乏しい。この本では「売淫」という言葉を使っており、現代であれば「売春」という言葉を充てるのだろうが、本来であれば、利益の種類(金、食料、便宜)などにより言葉を分けることが可能であるほうが厳密な議論ができる。さらに、それを職業としておこなうのか、非職業であるが継続しておこなうのか、あるいは単発的におこなったのかでも言葉が分けられるほうが望ましい。日本の近代社会では社会の表面には現れなくなった行為であるので、語彙が発達しないのだろう。

また、私は軍事に詳しくないので、軍事関係の用語の理解が思わしくない。たとえば前線の意味はわかっても兵站については具体的な実感が湧かない。このあたりも、この本を読み進むにつれて語のおおよその意味がわかってきたとは言え、読みにくいと感じる第二の理由の一部になっている。

宮台の解説は難しいが非常に良い。解説を読むだけでこの本の全貌がわかる。もちろん解説をきちんと理解するためには本文を読まねばならないが、まず解説を読むことでこの本の構成が把握でき、本文理解の助けになる。本文を読んだ後に解説を読み直せば、宮台の主張がより明確にわかる。