松永正訓(まつなが・ただし)『運命の子 トリソミー — 短命という定めの男の子を授かった家族の物語』(小学館)を読了した。松永は小児外科医で、現在は小児外科・小児科クリニックを開業している。
トリソミーというのは染色体異常の病気で、通常なら46本(常染色体22組+性染色体2本)のはずの染色体が47本(常染色体のどれかの組が2本ではなく3本ある)になっている。精子や卵子を作るときに減数分裂という特殊な分裂の仕方をし、染色体の各組が分離されて染色体23本の細胞ができ、それが精子や卵子になる。ところがときどき減数分裂がうまくいかず、どれかの組が分離されずに一方の細胞に染色体が2本とも入ってしまうことがある。それが精子や卵子になって、さらに受精までいくと、24+23=47本の染色体を持った受精卵ができる。これがトリソミーだ。トリソミーの受精卵の多くは子宮内で発育することができず、胎児のうちに死亡し、流産となる。だが一部のトリソミーは出生を迎えることがある。

出生数の最も多いのが21トリソミー(21番染色体が3本あることをあらわす。ヒトの染色体は各組に番号が振ってある)のダウン症で、その次に多いのが18トリソミー、13トリソミーとなる。多いと言っても絶対数は非常に少なく、21トリソミーは1,000人に1人、18トリソミーは3,500から8,500人に1人、13トリソミーは5,000から12,000人に1人と言われている(17ページ「はじめに」)。

以前は13、18トリソミーの児が1歳の誕生日を迎えることが難しかったので、そのような子どもは死ぬ運命であると考えられていた。治療は苦痛を延ばすだけのものとみなされ、治療をしないことを選択することが普通だった。しかし現在は1歳の誕生日を迎えるどころか、さらに生きる子も増えた。治療のために手術に踏み切る医師も増えてきている。

この本は、松永が日常診療を依頼された13トリソミーの児の話が中心だが、後半は、その診療をきっかけに彼が出会うことになった、トリソミーに限らない先天性疾患の児と、その児を持つ(あるいは持っていた)家族の話へと広がる。内容は良質のドキュメンタリーと言えるだろうが、小説を読んでいるような気持ちがするほど、児の家族ひとりひとりの人物像がよく描かれている。

松永はときに聞きにくいことを尋ね、意地悪とも思える質問をするが、それはこれがこの本をきれいごとで終わらせたくないと思ったからだろう。おそらく読者にとってもそのような質問がいちばん知りたいことであるのに、聞くことをはばかって、相手の気持ちを想像するだけで終わらせてしまうような質問なのだ。そして、松永が得た答えは、当事者からのものであるだけに非常に重い。