下園壮太『一見、いい人が一番ヤバイ』(PHP研究所)を読了した。奥付によれば下園は元自衛官で、衛生隊員などを経て陸上自衛隊初の心理幹部となったという。現在は退職し、カウンセラーをしている。

あとがきによれば、この本は編集者と下園との対話をライターが本にまとめたもののようだ。タイトルとテーマを発案したのも編集者だ。下園はこのタイトル案を聞いたとき「私が思ったのは、一見、いい人が一番うつになりやすい、というヤバさです」と書いている(203ページ「おわりに」)。ところが編集者の意図はその逆で、一見いい人そうに見える人が一番毒を持っているというものだった。おそらく編集者はこの企画を練っている段階でさまざまな「一見、いい人」のタイプを思い描き、それを書き出して下園との面談に臨んだのだろう。下園は自分の分析とアドバイスを述べ、編集者とライターがそれをまとめた。編集者の企画力が優秀なのだ。

下園のアドバイスはすべて納得がいくものばかりだ。逆に言えば目新しいことは無いかもしれない。だが、納得のいく対処法をしっかり提示できるというのは、非常に安定感があって良い。

彼は「人間にとって一番怖いのは人間だ(8ページ)」という。原文は太字になっている。この意見に私も賛成する。人間は現在、人間関係に起因するエネルギー消費がもっとも多いのではないかと思う。エネルギーが枯渇して人が自殺するとすれば、その原因は結局は対人関係なのだろうと思う。

人が疲れきると頑固になりかえって疲れを認めなくなるという指摘(28ページ)、イライラなどの負の感情はそれ自体がエネルギーを奪うが、感情にフタをしようとしても、フタをするにもエネルギーがいるという指摘(29ぺーじ)など、いずれもよく言われていることで、私も実感することだ。疲れていなければ相手を客観的に見ることができる。だから下園は、人は悩みごとで悩むのではなく「エネルギー低下によって悩んでいる(32ページ)」と言う。面白い言い方だと思う。そのために彼は休みことの重要性を強調し、休むことについて章をひとつ割いている。

彼は、カウンセリングのときに「人間が原始人だったころに立ち返ってみる」ことを勧めるという。そうすることで自分の心をよりシンプルに捉えることができる。このように考えるようになったのは自衛隊の心理教官になったときにハンス・セリエの学説を読んでからだ。

ハンス・セリエは、「私たちのストレス反応は、自分にとって有害な外部刺激に対する正常な反応として起こるものである。ストレス反応があるからこそ、私たちは命を維持していくことができる」と述べています。
私たちが苦手としがちな「怒り」や「恐怖」という感情もまた、真っ当な反応であり、こういった感情が心にわきあがるのと同時に、体でも心拍や血圧が上がり、筋肉は緊張度を高めます。これも、外敵と戦い命を守るための原始的な自己防衛本能だ、というのがセリエの考えです。(48ページ、太字は原文)

ストレスを感じることが悪いことだと思う人には、この話は有用だろう。