医療ポータルサイト「MedPeer」で2019年8月1日にに配信された石蔵文信「おだいじに。」の第35回は、前回の続きで「医師も知らない 病院めぐる縄張り争い」(https://medpeer.jp/news/96030)というタイトルが付いている。

石蔵は「医療というシマをめぐって、官僚の縄張り争いが勃発したようです」と述べる。縄張り争いの主人公たちは文部科学省と厚生労働省だ。

病院や医療を管轄するのは厚生労働省だが、医療・医学で大きな権力を持つ国立大学医学部の附属病院は、文部科学省が人事権を持っている。以前は国立大学医学部のスタッフが大病院や有力病院のトップとして異動し、本来であれば厚生労働省が握るべきはずの人事権が文部科学省により、いわば「侵害」されていた。石蔵によれば、そこで厚生労働省は国立病院の上級スタッフを大病院のトップに送り込む努力を重ね、文部科学省から人事権を取り戻してきたというわけだ。

そこに医師の「働き方改革」問題が起こった。特に無給で働く医師の存在が大きな問題となった。

先日NHKは、「無給医」が50の大学病院に計2191人いたというニュースを放送しました。その後7月2日には、根本匠厚生労働相が「給与が支払われない医師がいたのは誠に遺憾であり、賃金不払いは労働基準法違反で速やかに改善が図られる必要がある」と述べました。当初、「無給医」は存在しないかのような態度を示していた文部科学省も、6月末に99大学の医師、歯科医師の約7%が「無給医」であったと発表しています。

大学病院の経営は苦しい。医療も医学研究も労働集約型であり、その労働力を、以前は研修医に求めていた。新臨床研修制度により研修医に頼ることができなくなった現在では、下級職員である助教や、非常勤医師、無給医がその役割を担っている。石蔵は「無給医の是正は存亡の危機をはらむ問題」だと言うが、そのとおりだろう。病院はこれ以上人件費を増やすことが困難だろうから、全体の労働量の見直しと、配分の根本的見直しが必要となってくる。そのような「危ない事実」を厚生労働省が認めたことに何か隠された意図があるのではないかと石蔵は推理する。

さらに厚労省労働基準局は7月1日付で、所定労働時間外の自己研鑽については、「診療などの本来業務と直接の関連性がない」かつ「上司の明示・黙示の指示によらない」ものは、院内に残って行った研鑽であっても「一般的に労働時間に該当しない」とする基本的な考え方を示しました。
今回の厚労大臣の発言や通達は「医療・労働関係は厚労省の管轄」と言う意思を明確に示し、文科省にとどめを刺すつもりなのでしょうか? それとも、これを機会に大学から無給医を市中病院に派遣してもらって一気に医師不足解消を狙ったものでしょうか? 隠された意図は定かではありません。

ただし、縄張り争いをしているのは官僚だけではない。医師会も勤務医を取り込もうと必死になっているし、勤務医の中には医師会を開業医の利益団体として敵視し、勤務医の独立性を確保しようとしている人たちもいる。