在宅医療を往診により支えるとすれば、病院の往診システムも整備しなければならない。現在、往診にあたるのは開業医・クリニックが中心だが、数が圧倒的に足りない。開業医の中で、定期的な訪問診療ではなく、緊急時に対応できる往診をおこなっているものは多くない。特に、24時間往診対応のクリニックは少ない。独居で終末期を迎える人々が急増すると予想されているのに、クリニックがそんなにすぐ増えるわけもないし、一般の個人開業医が24時間対応を続けることには無理がある。病院の往診対応が必要になる。
厚生労働省は2018年の診療報酬改定により、200床未満の中小病院を地域包括ケアと在宅ケアに本格的に参入させるためのインセンティブが設けられた。
今回の改定により、在宅医療・かかりつけ医は診療所・開業医(のみ)が担うとの狭い理解(誤解)が払拭されると思います。(91ページ)
二木によれば、2003年に厚生労働省老健局長の私的検討会が報告書「2015年の高齢者介護」を取りまとめた段階では、医療は「診療所医療・訪問診療に限定されていました(90ページ)」という。
その後医療の範囲は徐々に拡大され、2012年には厚生労働省の有力高官が地域包括ケアシステムに中小病院を含むことを一斉に述べました。特に香取照幸政策統括官(当時)は2012年6月の日本慢性期医療協会総会の講演で、地域包括ケアシステムの概念に「入院機能を持った病院を組み込むことが必要」、「これまでは有床診のような20床くらいの小規模なサービスを考えていたが、もう少し規模の大きいものを考えないといけない」と明言しました。(90ページから91ページ)
このような、方針の変化を時期を特定して述べることができるのは、二木が非常に丹念に情報を収集し整理しているからだ。感心する。
また、厚生労働省は「在宅」の定義に自宅だけではなく高齢者施設も含めているので、少なくとも定義の上では独居者が中小の病院で最期を迎えることのハードルが下がったと言える。だが、中小病院で24時間対応の往診体制を組んでいるところは少ないし(それだけのマンパワーがない)、どの病院もベッド稼働率を上げるよう努力しているため、緊急の入院も難しいことが多い。また、私の周りの中小病院は建物が古いところが多く、昨今の経営環境では建て替えもままならない。患者は古い建物だというだけで入院を敬遠したりする。制度として適切に設計されていても、実態は少し違うと言える。
補章第3節「日本総研「日本の医療に関する意識調査」を複眼的に読む」では、2017年の同調査で「自宅で最期まで療養したい」が全体の19.6%にとどまることに注目している。政府・厚生労働省は2012年以降、「自宅死亡」から「居宅生活の限界点を高める」に政策を転換した。
それだけに、ジャーナリズムが、国民の多くが「最期まで自宅」を望むとのステレオタイプな報道を繰り返しているのは残念です。(262ページ)
ひとりひとりがどのような最期を望み、それを叶えるにはどのような対策が必要なのか、包括的な調査と政策立案が望まれる。
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