二木は「地域医療構想は地域包括ケアと一体的に検討する必要がある(18ページ、太字原文)」とし、その理由として、両者が法的にも制度的にも密接に関係していることを指摘しているが、そのように指摘されなくても、この両者が一体的に検討され運用される必要があるのは明らかだろう。医療とケアとはお互いを補完する関係にあり、バランスよく提供される必要があるばかりでなく、両者の境界は時としてあいまいですらある。

地域医療構想・地域包括ケアでは、現在の入院患者のうち約30万人を介護施設や在宅医療に移行させ病床数を削減することが目標とされている。二木は次のように述べる。

私は、地域医療構想を推進しても必要病床数の大幅削減は困難であり、2025年の病床数は現状程度になると予測しています。ただし、この予測は「現状追認」ではありません。実は、2025年の病床数が現状程度ということは、実質17万床の削減を意味するのです。(19ページ)

人口の高齢化により入院ニーズが増加するはずで、その増加数が17万床と見込まれているので、その分増加しないとすれば、それが実質的な削減に当たるということだ。

急性期病床の療養病床等慢性期病床への転換も必要となるだろう。医療費については、二木は次のように述べている。

私は、「高度急性期病床」の減少は不可避かつ必要と判断しますが、「急性期」の必要病床数は、今後の高齢人口の増加に伴い急性期医療ニーズが増加するため減少しないし、地域医療構想を推進しても医療費削減は困難であると判断しています。[中略]その最大の理由は、日本の高齢者の健康水準は世界でもトップクラスであるため、今後の高齢者の急増に伴い、急性期医療ニーズも増えるからです。(20ページ)

たしかに急性期医療のニーズは減らない。場合によっては増加するかもしれない。しかし、急性期治療の内容(あるいは「質」)はかなり変わる。救急搬送される疾患についてはデータが公表されている。『平成30年版 救急救助の現況Ⅰ 救急編』(https://www.fdma.go.jp/publication/rescue/items/kkkg_h30_01_kyukyu.pdf)の「第21表 急病の疾病分類別の年齢区分別搬送人員」によれば、成人(満18歳以上満65歳未満)では1位が消化器系(11.2%)、2位が精神系(8.0%)、3位が心疾患等(5.9%)、4位が泌尿器系(5.8%)であるのに対し、高齢者(満65歳以上)では1位が呼吸器系(11.3%)、2位が心疾患等(10.9%)、3位が脳疾患(9.3%)、4位が消化器系(8.7%)と、分布がかなり異なる。

細かい内訳が明らかではないので以下は推測だが、高齢者の呼吸器系は肺炎が多く、心疾患等は心不全が多いのではないかと思う。この2疾患は、いわゆる高齢者と、まだ高齢に達していない人では、治療方針が異なる可能性がある。高齢者に対して求められるのは、救命救急センターでの濃厚な高度治療ではなく、一般病床での穏やかな治療で、治療に反応しない場合には侵襲的な治療を避けて緩和ケアに移行することも視野に入れるべきだ。急性期医療といっても、救命センターやICUなどは増やす必要がないと考えている。医療費も、数(ニーズ)が増えるからといって、単純に増えるとはいえないと言うのが私の考えだ。

急性期とは発症後時間が経過していないことを表す言葉だ。発症からの時間だけで医療が分類できるわけではない。医療の内容まで考えるには、発症後の時間ではなく、どのような治療を必要とするのかを表す言葉を探さねばならないのかもしれない。