ニューロマーケティングという言葉がある。「ニューロ」は「神経」を意味する。比較的新しい言葉で、ウェブ雑誌「MarkeZine」の「世界のトレンドを読む」(2019年4月25日配信)では次のように説明されている(https://markezine.jp/article/detail/30888)。(以下、本文中の引用もすべてこの記事から。ただし、この記事は有料記事なので、引用は無料公開部分からのみ)

「ニューロマーケティング」という言葉が登場したのは2002年頃。オランダ・エラスムス大学のエール・スミス教授が作りだした造語といわれている。マーケティングやニューロ・エコノミクスのサブカテゴリーとして研究が進められている比較的新しい分野だ。
脳神経科学で用いられる機器や手法を活用し、消費者の脳が広告や商品などにどのような反応を起こしているのかを分析する。

消費者が商品を選ぶことを含め、「人間の行動の95%を無意識が決めているといわれている」。したがって、商品選好の予測は難しく、「食料雑貨店での新商品の失敗率は70~80%に上る」という。そのために脳科学の分野の知識をマーケティングに生かそうとする動きが現れた。この記事によれば、それを後押ししているのは脳波測定装置が容易に入手できるようになったからだという。

脳機能の研究にしばしば使われるのが、機能的核磁気共鳴画像(fMRI)と脳波(EEG)だ。MRIは、検査したい部位に強い磁場をかけ、分子の状態を検出する方法で、CTと同じように生体の断面の像が得られるが、特定の分子(主に水)の分布や状態がわかる像なので、形だけでなく、生体の活動状況などを知ることができる。fMRIは被験者に何か作業をさせながらMRI検査をおこなうもので、脳を撮影すればその作業中に活動している部分がどこかわかる。しかし装置が巨大で高価であり、撮像と画像処理に時間がかかり、リアルタイムの観察はできない。

それに対し、EEG測定機器は「fMRIに比べコンパクトかつ安価。また、広告を見た瞬間の脳内反応をリアルタイムで測定できる」。そのためニューロマーケティング分野では特に重宝されているという。

無意識に訴えることは以前からおこなわれてきた。新興宗教が勧誘の対象を食事に誘うのも、一緒に食事をした人には好感を覚えるというヒトの本能に働きかけるためだ。高価な壺を買わせたり、財産をすべて寄付させたりするのも、ヒトの「犠牲を払ってしたことに対しては正しかったと評価する(思い込もうとする)」という性質を利用するものだ。だが、こういった手法は、自分の行動を反省する機会があれば修正できる可能性がある。また、事前に手口を知っていれば警戒心を働かせて避けることもできる。ところが脳科学を応用して無意識の深いところに直接働きかけられてしまうと、その「操縦」に対抗することはむずかしそうだ。

このように深い無意識に直接訴えることは正しいことではないとされるのが一般的だと思う。無意識の操作ということでは、サブリミナル効果が話題になったことがある。これは、動画などの中に、人間が気づかなほど短時間のメッセージ画像を挿入して、無意識の行動を誘おうとする方法だ。サブリミナル効果は存在しないというのが結論のようだが、日本では日本放送協会(NHK)が1995年に、日本民間放送連盟が1999年に、それぞれの番組放送基準でサブリミナル的表現方法を禁止することを明文化している(Wikipedia「サブリミナル効果」)。NHKの「国内番組基準」(https://www.nhk.or.jp/pr/keiei/kijun/index.htm)は、第11項の6で「通常知覚できない技法で、潜在意識に働きかける表現はしない」としているだけなので、ニューロマーケティングも抵触する可能性がある。

ここまでいろいろ書いたが、要はコンピュータ関連の仕事をしているものとして、ゲーム中毒や無意識操作などに加担している可能性があるのが嫌なのだ。