「生活習慣病」という言葉について考えたい。この言葉は日野原重明が初めて使ったと聞いていたが、1996年12月に公表された公衆衛生審議会意見具申「生活習慣に着目した疾病対策の基本的方向性について」(https://www.mhlw.go.jp/www1/houdou/0812/1217-4.html)には次のような記載がある。

近年、わが国において生活習慣に着目した疾病の呼称としては、「習慣病(日野原重明,1978)」、「生活習慣病(川久保清,1991)」などの用語が認められる。

この審議会には日野原も加わっていることから、この記述が正確だろうと推定される。「習慣」という言葉を病名に取り入れたのはたしかに日野原が最初なのだろう。だが「生活習慣病」という言い回しは川久が最初ということになる。

この生活習慣病は、食事・運動・喫煙・飲酒などの生活習慣が発症や進行に大きく関与する疾患のことを指すのだが、以前は「成人病」と呼ばれていた。病気の治療より予防がより重要であることを印象付けるために考え出された名前だ。

この病名について、上記の意見具申の中にはすでに次のような記述が見られる。

但し、疾病の発症には、「生活習慣要因」のみならず「遺伝要因」、「外部環境要因」など個人の責任に帰することのできない複数の要因が関与していることから、「病気になったのは個人の責任」といった疾患や患者に対する差別や偏見が生まれるおそれがあるという点に配慮する必要がある。

だが、このような懸念があったにもかかわらず、「生活習慣病は生活習慣が原因」というような偏った考えが広まってしまい、糖尿病患者に対する自己責任論が語られることが多い。特に透析患者について、冷酷な意見が聞かれることがある。

「生活習慣病」の原因は、具申にもあるように生活習慣ばかりではない。普通に暮らしていてもなることがある。また仕事などの関係で不健康な生活を強いられることで病気になることもある。そのような点を、医療側からもっときちんと伝えねばならないと感じることが最近多い。生活習慣病と名付けた医療側には、その名前によって引き起こされる弊害を食い止める責任がある。