イヴ・ジネスト、他『家族のためのユマニチュード “その人らしさ”を取り戻す、優しい認知症ケア』(医学書院)を読了した。今後、高齢者が在宅でケアを受けつつすごすことが、より増えるだろうと予想されるため、家族がいかにケアを提供できるかが重要になる。家族が良質のケア技術を身につけ、負担を少なく保ったまま、高度なケアができるようになることが望ましい。そのためには家庭へのユマニチュード普及は必須のことだ。

この本で特に目新しいことはないのだが、家族向けということで記述が工夫されている。いくつかについて触れておきたい。

認知症患者本人がしっかり覚えていることについて積極的に話題にすると、本人の意欲を刺激し、不安を取り除くことができる。

ご本人の楽しい思い出を知っておくことは、介護する人にとって大切な「技術」なのです。(39ページ)

配偶者は昔の思い出を知っていることが多いだろうが、子どものときや若いときの思い出となると、とくに子どもや孫は知らないかもしれない。まして訪問介護に当たる介護職は知るはずがない。そこで、著者らは患者から積極的に話を聞き出し、ノートなどで共有することを勧めている。

また、認知症患者がケアを拒否することは、「防御の可能性がある」と説明されているが、家族に向けては次のようなメッセージが書かれている。

認知症の特徴として、細かい作戦を立てたり、それを実行したりすることはできません。つまり、ご家族を困らせようと、わざとそんなことをおっしゃっているのではないのです。(123ページ)

ジネストは、暴力的な患者だといっても、病室の入り口に隠れていて入ってくるスタッフを襲ったなどいう話を聞いたことはないというようなことを述べていた。だが、家族は、患者が人としてはそのままで、人格だけ別人格になってしまったということを受け入れにくい。ある意味でそれは当然のことなのだが、そのために患者の発言や行為を、昔の(発病前人格の)患者がやっているように思えてしまい、腹を立ててしまう。家族が人格変化を受け入れるためには、やはり医療側からの「教育」が必要だろう。

また、患者と視線を合わせ触れることについては次のように述べている。

家族や友人と日常的に頬にキスを交わし、挨拶として抱擁する文化のあるフランスでも、ケアの現場においては、近づいて目と目を合わせることも、ケアの場で言葉をあふれさせることもできていないことが多いのです。(125ページ)

まさにユマニチュードは「自然なものではない」、特殊な技法であり哲学なのだ。