日本の税は、権丈に言わせれば「情けないほどに財源を調達する力が弱い」。だから社会保障の精度設計をする際に税を財源とすることには問題がある。

もちろん、税を財源とする制度を強く求めて政治活動をするのもありだと思います。そして、強く激しく政治に働きかければその願いはある程度かなうかもしれません。でも日本の政治家は、その財源を税によって調達することはしてくれないんです。つまりは赤字国債頼み。
そうなると、僕らが税を財源とした社会保障制度を求めるということは、残念ながら赤字国債を出すことを政治家に求めていることにも近い話になってしまいます。この国で税財源を求めるということは、やはり、どこか無責任さと背中合わせであると批判されることは否めません。(98ページ)

給付は財源がなければ継続しておこなえない。社会保険料は一種の目的税(使途を特定して徴収される税金)として見ることができるので、有用であると権丈は主張する。

「目的税は給付の硬直性を招く」という批判が財政学における伝統的な評価ですけど、給付が硬直的であるからこそ、権利性のある給付を守ることができるわけです。(99ページ)

政府が消費税の導入と税率のアップに苦労している反面、「リーマン・ショックの時も東日本大震災の年も、年金保険料、医療保険も介護保険料も上がっている様子をみれば(99ページ)」社会保険料の財源調達力は確実であると言える。

それと関連していることと思うが、医療費の財源の重要な部分を占める国民健康保険の制度改革が進んでいる。2018年度から国民健康保険の保険者が市町村から都道府県に移っている。提供体制でも主導権を握ることになる都道府県に財政運営の責任も担わせようという制度改変だ。

こうして、これまで協会けんぽ、前期高齢者医療制度、後期高齢者医療制度と進められてきたリスク構造調節導入の動きは、この度、ようやく国民健康保険にも適用されることになったわけです。こうした動きは[中略]医療政策の政策単位が都道府県単位に再編されていく中で進められてきたとも言えます。(124ページ)

この改革は、組合保険の立場に立てばかならずしも歓迎できるものではない。だが、権丈は次のように述べている。

僕らが、リクス構造調整の拡大の歴史と評価している公的医療保険をめぐる四半世紀の動きは、所得が高く高齢化率が低い組合健保の人たちは、政治闘争における敗北の歴史と受け止めているのかもしれません。でも、社会保障というのは生きるのに厳しく冷たい市場経済の中で、ほっとする存在としての助け合いの制度でして、この制度に、高所得の組合健保は積極的に協力した方が、広く世論の支持を得て、永く存続していくことができるようにも思えるんですけどね。(125ページ)

組合健保に属している人たちも、いずれ退職し、高齢者となっていく。社会保障を年齢層などで切らず、各個人の一生をつうじたものとして考えれば、今回の総報酬割の導入は必要な措置であったと思える。