日本新生児成育医学会は2004年に「重篤な疾患を持つ新生児の家族と医療スタッフの話し合いのガイドライン」を公表した(「はじめに」http://jsnhd.or.jp/pdf/preface.pdf、「ガイドライン」http://jsnhd.or.jp/pdf/guideline.pdf、「あとがき」http://jsnhd.or.jp/pdf/afterword.pdf)。昨日取り上げたガイドラインの先駆けとなるもので、「プロセスのガイドライン」はおそらくこれが初めてのものだろう。ガイドラインを作成した研究班の主任研究員を務めた田村正徳(埼玉医科大学総合医療センター小児科)はワーキンググループを代表して「後書き」で次のように述べている。

疾患や病態別の機械的な治療区分を期待してこのガイドラインをお読みになる医療スタッフは、「これでは私達の悩みは解決しない!」と失望されることでしょう。そのとおりです。私達は、重症障害新生児に対する治療の“疾患別の機械的振り分け“や“ステレオタイプなマニュアル化”をしないために、この「話し合いのガイドライン」を作成したのです。

彼はさらに、このガイドラインを医師の裁量権に対する不当な制約と受けとめる医師がいるのではないかと述べ、このガイドラインは「医療スタッフと両親の悩みの安易な解消や思考停止」を目的にしたものではなく、「医療スタッフと家族がこどものためにしっかり悩みながら話し合っていただくためのガイドラインです」と断言し、さらに「このガイドラインではその手順も示しましたが、この手順に従えば結論がすべて正当化されるわけではありません」としている。

「あとがき」にはワーキンググループのメンバーである仁志田博司(東京女子医科大学母子総合医療センター )、船戸正久(淀川キリスト教病院小児科 )、玉井真理子(信州大学医学部保健学科)がかなりの長文を寄稿している。これを読むと、新生児医療の現場で重篤な疾患を持つ患児がどのように扱われてきたのかがわかり、このガイドラインの立ち位置が、ある意味で必然的に生まれてきたものであることがわかる。

仁志田は、いわゆる「仁志田のガイドライン」の作成者であるが、論文作成の意図と背景について説明し、さらに論文が彼の予期しなかった使い方をされたことについて反省の弁を述べている。仁志田は治療方針をAからDの4つに分け、疾患を例示した。そのために、たとえば「18トリソミーなら治療しない」というような短絡的思考が広まっていった。だが、そのように解釈された責任が彼にあるとは言えないと思う。患児の個別性を無視して思考を停止し、疾患名と治療を短絡的に結びつける解釈した側にも大きな問題があるだろう。

玉井は過去に現場で感じた違和感から初めて、仁志田の意図、仁志田論文の元となったダフ論文について解説し、さらに医療現場での話し合いの重要性について述べている。12ページにもわたる論説である。田村や仁志田が、感情を抑えた書き方であるのに対して玉井は自分の感情をかなり率直に述べている。現場の気持ちが直接伝わる文章だった。