全国の自治体で救急車の不適正利用が問題になっている。軽症での搬送依頼やタクシーがわりの依頼が目立つ。消防庁の統計では救急搬送者のうちほぼ半数が軽症者であり、本当に救急車を必要とする患者の救命に影響が出ることも懸念されている。2015年には国の財政制度等審議会が救急車の一部有料化を検討するよう財務相に提言したことが話題になった。

もうひとつ問題になっているのが転院搬送だ。医療機関を受診している患者の状態が急変し、救急の処置を必要とするがその医療機関では対応できないとき、患者を救急病院に搬送する必要がある。また、救急病院での治療が済み、状態が安定した場合、その病院でリハビリができないならリハビリのできる病院に搬送する必要がある。このような搬送を転院搬送と呼び、前者を「上り搬送」、後者を「下り搬送」と俗称する。

どちらも、従来から「緊急性があり」「救急車でなければならない」場合で「医師が同乗する」こととなっていたが、それが守られない場合があるのだ。たとえば以下のような「不適切事例」がある。

  • 80歳代の女性、大腿骨頸部骨折で救急搬送され入院していた。数日後、患者の状態が安定し、院内のベッドが満床となったため、救急車を要請し他の医療機関へ転院搬送となった。
  • 60歳代男性、誤嚥性肺炎の専門処置が終わり、引き続きリハビリによる療養が必要なため、救急車を要請し、リハビリ専門の医療機関へ転院搬送となった。
  • 40歳代男性、急性腹症で救急搬送され、初療処置後、入院治療の必要があったため、救急車を要請し、近くに受け入れ可能な医療機関があるにもかかわらず、遠方にある患者宅近くのかかりつけ医療機関へ転院搬送となった。(消防機関が行う転院搬送の要請に関する手引き http://taog.gr.jp/pdf/170907_4.pdf)

そこで東京消防庁は「消防機関が行う転院搬送の要請に関する要領」(www.tfd.metro.tokyo.jp/kk/syobyo/syobyo_bekki3.pdf)を定め、10月1日から運用を開始することとした。転院搬送に際しては、以下の要請基準を満たさねばならない。
  1. 緊急に処置が必要であること
  2. 要請元医療機関での治療が困難であること
  3. 他の搬送手段が活用できないと判断されること
さらに、「原則として要請元医療機関の医師が同乗するもの」とした。重症患者を搬送することを前提とした「消防機関が行う転院搬送は、要請元医療機関がその管理と責任の下で行うため」というのがその理由である。そして、それらのことを確認するために「転院搬送依頼書」(http://www.tfd.metro.tokyo.jp/drs/ss/154.pdf)を作成し、救急隊に提出しなければならない。