私は広井の指摘により「リベラリズム」という言葉の使い方の問題に気づいた。
「社会民主主義」「保守主義」「自由主義」という言葉は、ヨーロッパの政治における基本的な用語であり、実際、政党の名前などにもそれは使われているものである。一方、アメリカを中心とする政治哲学の領域では、(日本でも近年様々な文脈において言及されるようになっているが)、「リベラリズム」「コミュニタリアニズム」「リバタリアニズム」という用語法が一般的である。ここでもっとも注意すべきは、「リベラリズム(自由主義)」の意味がアメリカとヨーロッパでほぼ正反対の意味になっている点である。(191ページ)
米国のリベラリズムは、米国民主党のような、平等や社会保障のために積極的介入をする政府を志向する立場だが、欧州では逆に市場経済を重視してそれに対する政府の介入は最小限にするという立場だ。
政治学は門外漢なので、これまであまり気にしたことがなかったのだが、頭の中にしっくりしないものがあることには以前から気づいていた。この指摘を読んですっきりした。
もうひとつ私の注意を引いたのが、中国における「社会主義市場経済」についての言及である。広井は、「社会主義市場経済」とは社会主義から出発しつつそこに資本主義的な要素(市場経済)を導入したものであり、資本主義から出発しつつそこに社会主義的な要素を導入した「福祉国家」と非常に近い関係にあると述べている。彼は両者の違いを土地所有の公有性に求めているが、はたしてそうなのだろうか。
私は以前、米国の土地はほぼ全部政府が所有していると聞いたことがある。一部に軍が所有している土地があるが、私有地はなく、いわゆる地上権の売買をしているだけだとのことだった。そうであれば、中国と米国の違いを土地所有制度の違いに求めることはできないと思い、インターネット上で少し調べてみた。手近なところでウィキペディア(https://ja.wikipedia.org/wiki/ホームステッド法)と米国務省出版物「権利章典 – 財産権(仮翻訳)」(https://americancenterjapan.com/aboutusa/translations/2662/)および論文2編(「アメリカ不動産取引法概説」http://www.lib.kobe-u.ac.jp/repository/81010050.pdf、「アメリカの土地利用政策序説」https://www.maff.go.jp/primaff/kanko/nosoken/attach/pdf/195810_nsk12_4_01.pdf)に目を通したが、米国政府は広大な公有地を持っているものの、土地の私的所有は許されていることがわかった。聞いた話がどこまで真実であるのか、確かめてから考察に加えなければならないとしみじみ感じたが、すべての伝聞の「裏を取る」のは非常に難しい。専門外の話をするときにはじゅうぶん気をつけることを自戒としたい。