文章をなぜ書くのかといえば、他人に読んで欲しいからに他ならない。となれば読ませるための技術が必要で、特に出だしが重要である。お笑いの世界には「つかみ」という言葉がある。
- 相手の気持ちを引きつけること。また、その事柄。お笑い芸人が観客を引きつけるために最初に放つ独創のギャグ。また、講演や説明会の最初に聴衆の関心興味を高めるために話す事柄。「―のうまい芸人」
goo辞書「つかみ」https://dictionary.goo.ne.jp/jn/146623/meaning/m0u/
お笑い芸人は出だしで聴衆の気持ちを引きつけなければ、後のギャグもウケなくなる可能性がある。つかみは彼らの生命線である。
新聞には「天声人語」「編集手帳」「余録」「筆洗」「春秋」など、「1面コラム」と総称されるエッセイが連載されていることが多いが、やはり出だしに工夫を凝らしている。日常のちょっとした出来事や、興味深い逸話などから始め、読者の気持ちを引きつけておいて、社会情勢分析や政治批判につなげる。編集委員の腕の見せ所である。
日経メディカルオンラインの薬師寺泰匡による連載「だから救急はおもしろいんよ」で2018年1月25日に配信された「「急変時どうしますか」って聞いちゃいます?」(http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/yakushiji/201801/554551.html)を読んだとき、その話運びの上手さに感心し、上記のようなことを考えた。
彼の話は、一見医療と何の関係もなさそうな美容室の話から始まる。
この間、髪を切りました(正確には切ってもらった)。美容室に行くと、大体最初に「今日どうしますか?」って聞いてくれますよね? 僕は「好きにやっちゃってください」ってお願いするんですが、こう言うとうれしそうに切り始める美容師さんと、戸惑う美容師さんと2種類います。戸惑われても困るし、本当に好きにしてほしいので(だって相手は毛髪カットやスタイリングのプロですから)、好き勝手してくれる人のところに通っています。
これがどのような話になるのかは「ネタバレ」になるので控える。だが、彼が論じる問題点は非常に重要なものであるので、話の進め方ではなく彼の問題提起について、項を改めて論じることとする。