医療費削減策の一環として医薬分業と後発医薬品(いわゆるジェネリック)導入が推進されているが、著者らは効果に疑問を投げかけている。
調剤薬局が大きな利益を上げていることは、一時話題になった事実である。厚生労働省がそれを問題視している可能性があることは、在宅療養支援診療所の制度が設けられた際に、24時間対応の薬局がほとんどなかったことからもうかがわれた。在宅療養支援診療所は24時間の対応を求められているのだから、提携する薬局も24時間対応とするか、院内処方で薬を出すしかない。実質的な院内処方への誘導策で、医薬分業を見限ったのだと言われたものだ。
医薬分業が進めば、外来での薬代(入院外薬剤料)が調剤薬剤料にシフトするはずなので、入院外薬剤料は減るはずであるが、入院外薬剤費も実際には上昇している。著者らは「調剤薬剤料の増加の原因は,医薬分業だけではないはずである(147ぺージ)」と述べているが、これは医薬分業が調剤薬剤費を押し上げる要因のひとつであると暗に伝えるものだ。
後発医薬品の効果についても分析し、「ミクロレベルでの効果は明白であっても,調剤医療費については医薬分業その他の要因による増加を打ち消すほどの効果はないということになる(152ページ)」と結論づけている。ここで言う「ミクロレベルでの効果」とは、患者が負担する薬剤費のことだ。単価の低い薬を処方するのだから、薬剤関連の費用が減少するのは当然だろうと思うのだが、数字によれば調剤医療費は減少していない。ただ、医薬分業が調剤医療費を押し上げるメカニズムについては分析がない。
この本で繰り返されるのが、医療費適正化の方策として「魔法の杖はない」という言葉である。「こうすれば良い」という単一の方策はない。したがって、著者らが言うように、まず理念を定め、それに従って臨機応変に政策を立案し実行していくというのが、もっとも望ましい方針ということになる。