岸本和裕『ほんまもん—未来を変えるために私がしていること、きみたちにできること』(健康ジャーナル社)を読了した。岸本は福島県の総合病院に勤務する皮膚科の医師である。
岸本は福島県の皮膚科医療は崩壊しているという。皮膚科医が非常に少ないことに加えて、「皮膚科医の質が低い(236ページ)」と言い切る。彼自身は必死で働いて、少しでも多くの皮膚科患者を治療しようと奮闘しているが、もちろんひとりの医師の力でどうにかできるものではない。そこで、一時は若手医師の教育に力を注いだのだが、彼によれば皮膚科を選択する理由自体が「楽な科に行きたい」であることが多いそうで、結局、教育しても地方医療の過酷な現場に飛び込もうという医師は出現せず、彼の努力が空回りすることになった。だから彼は皮膚科医を育てることを止めた。
私は考え方を変えました。皮膚疾患患者さんを「笑顔」にするという「目的」を達成するのは「誰」でもいいと。「誰」が担当するかは「手段」に過ぎないのですから。
そもそも皮膚科医だけが担当する必要なんてないのです。内科医、小児科医、看護師、薬剤師などの医療人が担当してくれるのならそれでいいじゃないかと。(235ページ)
彼は大学でも講義を担当しているが、看護学校などでも講演し、患者の「涙」を「笑顔」に変えるのが本当の医療であると、医療人としてのあり方を話している。会社の新人研修でも講演し、自分のなすべきことは何であるのかを見失わない生き方を説いているようだ。そして、講義で伝えられる人数には限界があることを感じ、講演内容をまとめてこの本を執筆した。それだけに止まらず、彼は著書を主要な医療機関に配布したのだ。私がこの本に出会ったのは、勤務先に送られてきた本が回覧に回されたからだ。
この本には岸本の情熱が詰まっている。この本を読んで感じたこと、考えたことを書いていきたい。