マイケル・トマセロ『ヒトはなぜ協力するのか』(勁草書房)を読了した。トマセロはマックス・プランク進化人類学研究所共同所長である。この本は、2008年にスタンフォード大学で行われたタナー講義の記録なのだが、タナー講義とは米国の実業家・哲学者のタナーが創設した「人間の価値に関連する学問的・科学的知見を省察し前進させること(137ページ「訳者解説あとがき」)」を目的とする連続講義で、「タナー講義の講師として招かれることは、『人間の価値をめぐる研究領域』における比類ない業績を認められたことを意味する栄誉のひとつとみなされている(137ページから138ページ)」のだそうだ。
トマセロはヒトの文化の特徴として「累積的進化」と「社会制度」を挙げる。累積的進化とは、あるヒト個体が克服すべき課題に応じて道具やものごとのこなし方を発明すると、それを周囲のヒトが学習し、慣習や文化にしていくという現象である。社会制度とは「相互に承認されたさまざまの規範や規則によってコントロールされる行動習慣のセット(3ページ)」と定義されているが、あらゆるヒト文化ではそれぞれの規制(つまり社会制度)のもとで交配や婚姻が行なわれ、違反すると何らかの制裁が加えられる。いずれも動物の社会では観察されない現象だ。
この現象の根底にあるものが「協力する技能」と「協力しようとするモティベーション」であるとトマセロは言う。ただし、ヒトが自分自身の生存を持続できなければ子孫を残すことはできない。したがって利己的な性質を持たざるをえない。「ヒトの協力性や援助性は、言うなれば、この自己中心的な基盤の上に成り立っている(12ページ)」のだ。
ヒトの利他性には3つの側面があるという。
そして、これらの利他性は異なる進化史を持っている。
それぞれについて、チンパンジーとヒトの幼児を比較した実験が紹介されているが、いかにヒトの子どもが小さい頃から「協調する」ことを前提として行動しているかがわかる。トマセロが実験の対象としているのが18ヶ月ほどの幼児であることから、それまでに何らかの教育が行われ、その成果として幼児が協調性や利他性を学習したのではないかという反論がある。しかし彼は以下のように断言している。
社会の影響、親の影響を否定するものではないが、ヒトは生来協力する性質を備えていると著者は考えている。
トマセロはヒトの文化の特徴として「累積的進化」と「社会制度」を挙げる。累積的進化とは、あるヒト個体が克服すべき課題に応じて道具やものごとのこなし方を発明すると、それを周囲のヒトが学習し、慣習や文化にしていくという現象である。社会制度とは「相互に承認されたさまざまの規範や規則によってコントロールされる行動習慣のセット(3ページ)」と定義されているが、あらゆるヒト文化ではそれぞれの規制(つまり社会制度)のもとで交配や婚姻が行なわれ、違反すると何らかの制裁が加えられる。いずれも動物の社会では観察されない現象だ。
この現象の根底にあるものが「協力する技能」と「協力しようとするモティベーション」であるとトマセロは言う。ただし、ヒトが自分自身の生存を持続できなければ子孫を残すことはできない。したがって利己的な性質を持たざるをえない。「ヒトの協力性や援助性は、言うなれば、この自己中心的な基盤の上に成り立っている(12ページ)」のだ。
ヒトの利他性には3つの側面があるという。
1.物品に関する利他性。例)食物の分配に応じる。寛容であること。
2.サービスに関する利他性。例)手の届かないものを取ってやる。援助的であること。
3.情報に関する利他性。例)考え方、ゴシップなどを共有する。情報伝達的であること。
そして、これらの利他性は異なる進化史を持っている。
それぞれについて、チンパンジーとヒトの幼児を比較した実験が紹介されているが、いかにヒトの子どもが小さい頃から「協調する」ことを前提として行動しているかがわかる。トマセロが実験の対象としているのが18ヶ月ほどの幼児であることから、それまでに何らかの教育が行われ、その成果として幼児が協調性や利他性を学習したのではないかという反論がある。しかし彼は以下のように断言している。
[3つの側面の]いずれにおいても、「文化による変容や親のうながし、あるいはなんらかの社会化が、子どもの示す利他性をもたらしている」と考える根拠は、ほとんどありません。しかし、子どもの成長に伴って、社会化が重要な役割を果たすようになるのはあきらかです。個人ごとに異なる経験や文化ごとに異なる価値観や社会規範―これらすべてが影響を及ぼすのです。(32ページ)
社会の影響、親の影響を否定するものではないが、ヒトは生来協力する性質を備えていると著者は考えている。