阿部和也の人生のまとめブログ

私(阿部和也)がこれまで学んだとこ、考えたことなどをまとめていきます。読んだ本や記事をきっかけにしていることが多いのですが、読書日記ではありません。

2014年10月

下村健一『マスコミは何を伝えないか―メディア社会の賢い生き方』(岩波書店)を読了した。下村はTBSの報道局勤務を経てフリーとなったジャーナリストである。2010年からの2年間は内閣広報室審議官も勤めている。本書はマスコミが伝えないことを掘り起こして伝える本ではなく、報道の限界を考える本である。

第1章は「報道被害はなぜなくならないのか?」で、伝える側のマスコミと受け手の社会に存在する構造的な問題を取り扱う。第2章以降は下村が考える解決への手がかりを述べたもので、第2章「マスコミ自身による解決の道」、第3章「自らが発信する時代へ」、第4章「メディア社会を賢く生きるために」と、マスコミ自身の在り方を変える方策、市民メディアによる補完、受け手の側の社会のメディアリテラシー向上による対策が述べられている。

私はマスコミに対して根強い反感と不信感を持っている。しかし、マスコミに友人がいるのも事実で、彼らが真面目に仕事をする人間であることも知っている。なぜ真面目な人間が勤めるマスコミが、総体としては反感の対象となるように動くのか。世の中によくあることと言ってしまえばそれまでなのであるが、本書はその不一致を丁寧に説明するだけではなく、下村が長年かかって呻吟しながら考え出した対応策を提示しており、非常に好感が持てた。

まず彼の謙虚さに好感を持った。もちろん、言葉だけで謙虚さを装うことはできるが、これが心からの発言であることは読み進めればわかる。
この仕事を始めてから四半世紀、私の報道で傷つけられた人は、どれほどの数に上るのか分かりません。ですからこの章は、「私だけが理想的な報道をしていて、他の駄目な報道を断罪する」という立場で語るのではありません。むしろ、加害体験を重ねてきた者だからこそ分かる《報道被害発生のメカニズム》を、自責と自戒の念を込めて証言したいと思います。(3ページ)

彼は発生のメカニズムを(1)アンバランス報道、(2)あいまい報道、(3)誤報、(4)取材すること自体の加害性に分類している。報道のアンバランスは、注目を浴びることのみを報道する姿勢、ニュース伝わりやすさを重視するための「平明化」、報道テーマの絞り込み、バッシングによって起こる。これらすべてに実際の報道例と、それによってもたらされた報道被害が説明されている。

中でも印象に残ったエピソードが、2005年4月に中国で起こった「反日騒ぎ」の報道だ。中国に取材に行ったマスコミは、騒いでいる人々を撮影する。実際は騒いでいる人々の周りには傍観する人々がおり、その外には日常の暮らしがあるのだが、それを撮影してもニュースとしての価値がないので、撮影しない。そのため、日本のテレビで放映される映像は騒ぎの映像だけになる。たしかに思い返せば「中国全土で反日の嵐が吹き荒れている(7ページ)」という印象だった。

そこで下村は自分が担当する番組で「デモに参加せず、大使館に向かって石を投げていない中国人たち」も取り上げた。番組の視聴者からの反応は、中立的な見方ができたと概ね好評だったが、取材に応じた中国人たちから強い抗議があった。
「自分たちだって、大使館に物は投げないが、最近の日本の中国に対する態度には、いっぱい言いたいことがあるんだ。それが今日の放送では、まるで反日の示威行動を起こしていない中国人は、日本に対して何の不満もないいかのように単純に伝えられちゃったじゃないか。自分たちは暴力行為には反対だけれども、「でも日本の皆さん、考えてください」と言いたいことはいっぱいあるんだよ。その部分をなぜ伝えてくれなかったのか」―というように、とても強く責められたのです。(10ページ)

彼がもらった放送枠は8分だった。その中にすべてを収めきれなかったという事情がある。また、レポートの続編が放送できれば結果はまた違ったろう。ただ、彼にはその機会は無かった。

インターネットバンキングでの不正送金が後を絶たない。2013年の被害は1315件、約14億円にのぼり、過去最悪を記録したが、2014年に入ってからさらに拡大し、1~2月の2カ月間だけで被害額は6億円にのぼり(http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20140415_644324.html)、5月時点では被害総額が約14億1700万円に達するという記事があった(http://www.keyman.or.jp/at/30007391/)。1カ月で約3億円である。よくそんな金があるものだと思うが、「高齢者は裕福だ」という言説がやはり事実であるのかと考えざるをえない。少なくとも私の周囲には何千万円もの現金をすぐに用意できる人間はいない。
インターネットバンキングの不正送金の手口といえば日本ではこれまで、偽サイトへ誘導して認証情報を入力させる“フィッシング”だったが、最近では不正送金ウイルスへと移行している。警察庁によると、2011年3月から2013年11月までの不正送金の手口の内訳でフィッシングは7.7%にとどまり、マルウェア(不正送金ウイルス)によるものが92.3%を占めている。

不正送金ウイルスによる手口は、ユーザーのPCに「Zeus(Zbot)」や「SpyEye」といったマルウェアを感染させ、ユーザーが本物のインターネットバンキングのサイトを訪問した際に、不正なログイン画面を表示して認証情報を窃取したり、送金先の口座や金額を裏で書き替えるというものだ。(上記impress)

同記事によれば、不正送金ウィルスの感染は2013年後半から増加している。2013年1月の時点では月間322件だったのが、7月には月間3335件へと急増し、さらに11月には月間5322件という過去最悪を記録した。2014年3月末までの15カ月間で、約3万9000台のPCが不正送金ウィルスに感染したという。さらに、約4割のユーザーが2週間以上も不正送金ウィルスの感染を放置していることも分かった。調査したのはセキュアブレインという会社で、インターネットバンキングユーザ約250万人に「PhishWall」というフィッシング・不正送金対策ソフトを提供している。PhishWallには不正ログイン画面の表示をブロックして警告する機能はあるが、感染した不正送金ウイルスの駆除自体はウィルス駆除ソフトで行う必要がある。ユーザが手順を理解していないか、わかっていても億劫がってウィルス駆除をおこなわないのだろう。
さらに不正送金ウイルスに感染したPCでは、銀行のお知らせページをスキップさせたり、注意喚起メッセージを削除するといったことも可能だ。また、ページの改ざんを検出して警告を出すためのJavaScriptを改ざんし、その警告機能を無効化するなど、銀行が実施するさまざまな不正送金対策を回避する手法も取り入れるなど、攻撃者といたちごっこの状況になっているという。(上記impress)

これらのウィルスは日本を攻撃対象としている。なぜ日本を狙った攻撃が増加しているのかだが、犯罪組織の手口が進化して、不正送金した金を日本で引き出す方法が確立されたことが大きいとのことだ。ロシアのセキュリティ関連会社Doctor Webの解析によれば、「ボットネットの名称に、例えば『20140314』というような年・月・日の順の形式の命名パターンが見られる」とのことで、作成した犯罪組織は日本、中国、韓国のものである可能性が指摘されている。

不正送金ウイルスへ感染しているかどうかを判別することは、一般のユーザには不可能だろう。重要なことは通常時の正規画面をよく知っていること、感染の可能性をいつも念頭に置き、ログイン画面がいつもと違うことにすぐ気づけるような心の準備が必要だという。また、送金用パスワード(第2暗証番号)をログイン画面で入力させたり合い言葉の変更を促すこと、乱数表をすべて入力させるといったことは、正規のインターネットバンキングではありえないといったことを理解しておくことも必要だと指摘されている。自信のない人は手を出すべきではないということだろう。

また、上記keymanの記事ではパスワードの使い回しによりパスワードリスト攻撃の被害が増えていることが指摘されている。パスワードを覚えている時代から、紙に書いて印鑑と同じようにしまっておく時代に変わったのかもしれない。

最近Mac用のマルウェア(悪意を持ったソフトウェア)が続々と登場しているらしい。以前はMacが少数派だったため、ウィルス開発は割に合わなかったのだろうが、最近はUNIXユーザにもMacユーザが増えており、ウィルスの「作り甲斐」ができたのだろう。iPhoneのマルウェアも登場している。

2014年9月からMac.BackDoor.iWorm(以下、単にiWormとする)が話題になっている。10月初めの時点で18,000台以上のMacが感染していると言われている(http://applech2.com/archives/41183265.html)。iWormはMacから他のMacに感染するようなウィルスではなく、海賊版ソフトウェアをインストールすることで感染するマルウェアだ。Adobe Illustrator、Photoshop、Microsoft Office 2011、Parallels Desktopなどの海賊版と一緒にパッケージ化されているらしい。iWormに感染すると、標準では塞がれているポートを開放し、reddit.comという掲示板サイトにアクセスして、コマンド&コントロールサーバ(感染したコンピュータを遠隔操作するためのサーバ)のリストを取得する。その後は悪意のあるユーザからの接続を待ち、接続されると悪意のあるユーザが望むほとんど全てのタスクを実行できるそうだ。このiWormにはすでに4種類の亜種があると言われている。

対策としてはFinderのメニュー[移動]から[フォルダへ移動...]を選択し、「/Library/Application Support/JawaW」と入力する。これが見つかれば削除すれば良い。

また同じ9月に、Windowsを対象としたマルウェアであるXLSCmdもMacOS Xに移植されたと報じられている。感染すると、Windows版と同様のファイル転送や、実行ファイルの追加をおこなうだけでなく、キー入力のログや画面キャプチャの結果を外部のサーバに送信する(詳細はhttp://www.fireeye.com/blog/technical/malware-research/2014/09/forced-to-adapt-xslcmd-backdoor-now-on-os-x.html)。 OS X版では、~/Library/LaunchAgents/clipboardd(dが2個)というファイルがあれば、それがマルウェアのファイルである。

さらに10月1日にはintegoでXsser mRATが紹介されている(http://www.intego.com/mac-security-blog/ios-malware-xsser-mrat-targets-jailbroken-ios-devices/)。こちらは「脱獄(jailbreak)」したiOS(iPhoneのオペレーティングシステム)をターゲットとしたものだが、Android用に作成されたトロイの木馬を移植したものらしい。このiOSでもAndroidでも実行可能なトロイの木馬は中国語のソフトウェアで、何と香港の抗議活動を対象としているらしい。電源を切っても、再度電源を入れた時点で自動起動され、SNSメッセージ、通話記録、位置情報、写真、連絡先、保存されているパスワードなどを遠隔サーバに送信するが、そのサーバを制御しているのは外国の政府機関らしいと報道されている。脱獄していなければ感染しないので、ほとんどの人にとって実害のないマルウェアだろうが、中国政府機関が作成したと考えられるところが恐ろしい。

そう言えば、2012年にはMicrosoft Wordの脆弱性を利用してOS Xに「MacControl」と呼ばれるバックドアを仕込むワード文書ファイルが確認されているが、これはチベットのNGO(非政府組織)を標的にしたものだという。中国のフログラミングのフォーラムで入手可能なWindows用のソースコードを流用したことが明らかになっている。これも中国政府が関与しているのだろうか。

実害は報道されていないが、bashシェルにも重大なバグが報告されている。「Shellshock脆弱性」と呼ばれるこのバグは、OpenSSLで発見された「Heartbleed」よりも深刻だという説もある(http://www.intego.com/mac-security-blog/shellshock-vulnerability-what-mac-os-x-users-need-to-know/)。Heartbleedがデータ盗難の危険性を生むだけの脆弱性だったのに対して、Shellshockはコンピュータを自由に操れる可能性がある脆弱性だからだ。

脆弱性の存在を確認するには、ターミナルを起動し、以下の行を入力して実行させる(入力後に改行を入力する)。
env x='() { :;}; echo vulnerable' bash -c 'echo this is a test'

ここで「vulnerable」と表示されれば脆弱性がある。しかし、デフォルトのシェルがbashでない場合、また外部からbashにアクセスできない場合は、本体を攻撃される心配はない。なお、OS X Yosemiteの10.10パッチではこの脆弱性が修正されている。

東大話法とは何なのかについては、「東大話法規則一覧」という表があるので、そこから最初の9つを引用したい。
規則1 自分の信念ではなく、自分の立場に合わせた思考を採用する。
規則2 自分の立場に都合のよいように相手の話を解釈する。
規則3 集うの悪いことは無視し、都合のよいことだけ返事をする。
規則4 都合のよいことがない場合には、関係のない話をしてお茶を濁す。
規則5 どんなにいい加減でつじつまの合わないことでも自信満々で話す。
規則6 自分の問題を隠すために、同種の問題を持つ人を、力いっぱい批判する。
規則7 その場で自分が立派な人だと思われることを言う。
規則8 自分を傍観者と見なし、発言者を分類してレッテル貼りし、実態化して属性を勝手に設定し、解説する。
規則9 「誤解を恐れずに言えば」と言って、嘘をつく。

規則は20まである。ほぼすべて安冨が東京大学で仕事をする中で発見し、確認したものであるが、一部にブログなどから抽出したものもある。このように整理すると、福島第1の事故後もいい加減な発言を繰り返していた「原子力の専門家」たちの言動のパターンが、たしかによくわかる。彼らの発言や態度を(私のように)個人の不実に帰することなく、現象として分析し、理由を探ろうとするところが安冨の学者らしいところだろう。安冨が言うように、これは東大に蔓延しているだけでなく、社会の上層部にしっかり根付いているように感じられる。

私が高校生の頃、私の周囲では「評論家的態度」を嫌悪する風潮が強かった。その嫌悪は、それ以来私の中に根付いており、今でも「対案のない批判」や「自分の考えを明らかにしない評論」には強い反発を感じる。「自分の考えを明らかにしない評論」とは、ある問題について「自分はこう思う」ということを明らかにしないまま、その問題についての他人の発言についてあれこれ論評する態度だ。今回そこに安冨の分析を加えることができたので、より自分の考えを明確にできるようになった。

私が嫌っていた話し方と「東大話法」には共通点がある。自分の信念を明かさず、自己の立場からの発言に終始する態度は「規則1」だし、評論家的態度とはまさに「規則8」だ。私が原発事故後の「専門家」たちの発言に感じていた苛立ちや怒りはこれらの「規則」により見事に説明されているように感じられる。

本書では「東大話法」について、実例が使い手の実名とともに挙げられている。批判する場合に名前を伏せて批判している本が多く、フラストレーションが溜まることも多いのだが、本書は実名なので気持ちがいい。別に実名が挙げられたからといって、その批判を鵜呑みにするつもりは無い。しかし、挙がっている名前を見て、私が何となく合わないと感じていた人々だったので、妙に納得がいった。

原子力村の「御用学者」たちの他に名前が挙がっているのは、池田信夫と香山リカである。池田はこのブログでも取り上げたことがあるが、一時私は彼のブログを続けて読んだことがある。私が読んだ部分で述べられていたのは、ウラン埋蔵量や、プルトニウムによる水爆製造などの「ウラ話」的な話だが、彼の専門領域外の話が、典拠の記載もなく断定的に述べられていた。内容があまりにできすぎている感じがして、ウラを取らねばならないと思い、いろいろと文献を当たったのだが、話が広範囲なこともあり、確認が取れないでいる。彼のブログの記事を元に、このブログの原稿も複点書いたのだが、根拠のない話を取り上げるわけにはいかないのでそのままボツになっている。いずれ少しずつ疑問点を正して整理しなければならないと思っているが、やはり池田には注意しなければならないことを再認識し、原稿をボツにしておいて良かったと安堵している。

香山はこのブログで取り上げたことはないが、ブログを始める前に彼女の本を読んでいるし、彼女のブログを読んだこともあり、放送を聞いたこともある。彼女はユニークな切り口で社会現象を分析する。話はわかりやすく、面白い。しかし、私は何とはなく彼女との距離を感じた。共感が薄いと言おうか、彼女の本を読んでいてもわくわくする感じがない。しかし、私は自分が感じた感覚を整理することができていなかった。

私が香山に共感できないのは、彼女があまりにもクリアカットに物事を説明しようとするからかもしれない。彼女は対象から完全に身を引き、純粋な分析者の立場でものを語っているように感じる。それに対して私の認識では、私と相手はいつ入れ替わってもおかしくない。私が「妄想を持っている」と評価している相手から見れば、私の方が妄想を持っているのだと評価される可能性がある。彼女にとって彼女の分析結果は「彼女の意見」ではなく「彼女が見つけた事実」なのだと思う。したがって、その分析結果は科学論文の「結果」のように、発見者から独立した存在である。だから彼女はまるで他人事のように分析結果を語ることができる。これは彼女の精神科医としての態度がさせることなのだろう。私にとって、私の分析結果は「私の見方」なのであり、私から独立して存在することはできない。

精神科医といっても彼女のような医師ばかりではない。患者と一緒に悩もうという医師もいる。私も患者と一緒に悩む医師でありたい。

安冨は第5章で原発事故とオカルトについて考察している。
原子力発電所の事故以来、多くの人が原発に反対するようになりました。それは健全な判断だと私は思います。ところが、そういった人々のツイッターやブログを見ていると、不思議なことに、オカルト的なるものを信じる人が多いことに気づきました。どのくらいの比率なのか明示することはできないのですが、私のブログやツイッターの原発に関する記事に好意的な反応をしてくださる方の書き込みを見ると、「オヤ、この人もか」と思うことが頻繁にありました。原発事故とその被害状況や、あるいは官僚システムの欺瞞性について冷静に分析し、有益なコメントを出している相当の知識を持つ人が、同時に、
「今回の地震はアメリカの地震兵器による攻撃だ」
「核兵器によって地震を起こしたことを隠蔽するために、原発事故が意図的に起こされた」
「背後に秘密組織の陰謀がある」
「放射性廃棄物を無害化する技術は確立されているのに、陰謀によって封印されている」
[略]
といった類のことを、原発批判と同じ調子で言っているのです。(241ページ)

彼の結論は「原子力とオカルトは共に、熱力学第二法則を乗り越えようとする幻想という点で、同じ論理構造を持っている」というものだった(242ページ)。彼は、上の引用のすぐ次にこの「結論」を置き、その後約10ページにわたって理由を説明している。私がこの「結論」を見たときの印象は、彼の言っていることも、オカルト信者の言うことも大差が無いのではないかというものだった。だが、この後に彼の緻密な論証があり、納得のできる説明があった。

安冨は、彼らが「専門家」や「官僚」が信頼できないものであることに気付き、科学技術や社会に対しても不信感を抱いたと考える。そのために、科学的に不可能とされているものも実は可能であり、それが陰謀などにより封印されているのではないかという考えに至り、オカルトを信ずるようになったと推測している。熱力学第二法則とはエントロピー増大の法則とも呼び、永久機関が作成不可能であることを説明する法則である。物理学の「法則」とは、世界の仕組みを記述したもので、変更したり迂回したりできない「原理」である。しかし、科学や現実世界が嘘によって歪められていると確信した人々は、この「法則」をも疑ってかかるようになる。

安冨の理論では、原子力を信ずる人々は無限のエネルギー源(第二法則に従えばありえない)を求めているし、オカルトを信ずる人々は第二法則を含む物理法則に反する技術が確立されていると信じていることから「同じ論理構造を持っている」ということになる。原子力信者たちがなぜ安易に原発を無限のエネルギー源のように言うのかについて、彼の考察は無い。ただ、原子力信者は日頃から、ウラン235という有限の資源に依存した原子力があたかも未来永劫発電を続けられるように宣伝しているので、彼らがそう考える理由はわからないにせよ、信じているとは結論できる。

彼は原子力信者もオカルト信者も同列に論じている。上に引用した部分から察すると、彼はオカルト信仰を「健全な判断」だとは思っていないようだ。しかし、オカルト信者の問題も人間の哲学的問題と理解して解釈している。その点私は、安冨が引用したような意見は「妄想」であると思っている。妄想を持っている人たちの中には、自分の妄想に基づいて活発に発信している人がいる。そのような人が目立つのだと思っている。このような私の考え方は、医学教育の中で身についたものなのか。それともごく一般的な思考なのだろうか。

私は、安冨のような議論に接すると、私が「わかった」と思ったことは他人から見れば妄想に過ぎないのではないかと、漠然とした不安を感じる。私がわかったと思ったことが他人にうまく伝わらないのは、それが私の妄想にすぎないからではないかと思うのである。このブログを書き始めた理由はそこにもある。ブログを書くことで、私の考えが個人的な妄想にすぎないのか、現実から学んだ真実であるのかを判別する手がかりが得られればと思っている。

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