何が過重労働であるのか、簡単に言うことは難しい。おそらく、皆が合意することも困難なのだろう。しかし、何らかの形での基準を設定しないことには、話が進まない。労働基準法では労働時間を基準としている。労働時間は週40時間までと決められており、それを超える労働は時間外労働となる。そして、時間外労働も月40時間までと決められており、月40時間を超える時間外労働は原則として違法である。医師の時間外労働が多いのは有名だが、その原因の多くは当直である。
第63回日本病院学会のシンポジウムで、日本病院会地域医療委員会委員長の塩谷泰一が、勤務医に対して職場の現状を質問したアンケートの結果を報告している。
月平均の宿直回数は、月4回までという病院が、2006年の調査では60%だったが、2013年の調査では90%にまで増えている(5回以上の病院が減ったので、4回未満の病院が減ったわけではない)。週平均の勤務時間も、2006年の調査では40~50時間、50~60時間、60~70時間、70時間以上がそれぞれ4分の1ずつだったが、2013年の調査では40~50時間が半分で、40時間以下が3分の1と顕著に増加してる。70時間以上は1%にすぎない。病院を運営する側が、それなりの対策をとっていることがわかるが、宿直翌日の勤務体制について訊くと、「通常通り」が57%を占め、「半日休み」22%、「1日休み」8%にすぎない。
「労働基準局から是正勧告を受けたことがありますか」という問いには、3分の1の病院が勧告を受けていた。労働時間が長いこと、割増し賃金の未払いなどが理由である。このような労働環境になる原因を塩谷は宿日直問題に求めている。
この議論は正確ではないだろう。最大の問題は、夜間休日の救急医療を当直医におこなわせている病院がほとんどだということだ。救急病院でなくても、入院患者がいるかぎり医療法の規定で当直医が必要で、当直医は夜中に尿道カテーテルの挿入や静脈留置針の刺入、急変患者の診察や対応をおこなう。これも時間外労働なので、厳密に言えば違法で、働いた時間に対して当直手当とは別に割増し賃金を支払わなければならない。ところが、救急病院では診療業務をおこなうことを前提に医師を時間外に拘束しているのだから、違法性が高い。
救急診療をおこなうのをやめれば、地域救急が破綻するので、当然のことながらやめることはできない。では、夜間の救急診療を業務とすればいいかと言えば、その分の日勤を減らさねばならないので、日中の診療体制が破綻する。問題は労働時間の長さであるので、賃金や手当で解決できる問題ではない。唯一の解決法は医師を増やし、交代制での救急診療がおこなえるようにすることだ。これも金の問題であると言えなくもない。しかし夜間働く医師を充分に確保できる賃金を支払って、救急診療の採算が取れるかと言えば、答えは否定的である。
私が日頃感じているのは、このような病院勤務医の労働環境に対する周囲の無理解である。私の勤務先も、医師たちが精一杯頑張っているのに対し、周囲の医師会からは時間外や救急の対応をさらに充実するように求められている。言わば「後ろから弾が飛んでくる」状態なのだ。さらに労働基準監督署は労働環境の改善を求めてくるが、労基署が私たちに変わって周囲の医師会に説明したり要請したりしてくれるわけでもない。
第63回日本病院学会のシンポジウムで、日本病院会地域医療委員会委員長の塩谷泰一が、勤務医に対して職場の現状を質問したアンケートの結果を報告している。
月平均の宿直回数は、月4回までという病院が、2006年の調査では60%だったが、2013年の調査では90%にまで増えている(5回以上の病院が減ったので、4回未満の病院が減ったわけではない)。週平均の勤務時間も、2006年の調査では40~50時間、50~60時間、60~70時間、70時間以上がそれぞれ4分の1ずつだったが、2013年の調査では40~50時間が半分で、40時間以下が3分の1と顕著に増加してる。70時間以上は1%にすぎない。病院を運営する側が、それなりの対策をとっていることがわかるが、宿直翌日の勤務体制について訊くと、「通常通り」が57%を占め、「半日休み」22%、「1日休み」8%にすぎない。
現在の宿直時間を除いた1週間の平均勤務時間は50~60時間でした。それに加えて月4回、最低週1回の当直があり、6割の病院で当直明けの医師が休めていませんでした。労働基準法の第9条に「労働者とは職業の種類を問わず」と明記されています。「問わず」ということですから、医師も労働者であり、このような勤務環境であれば、労働基準法違反になります。(17ページ)
「労働基準局から是正勧告を受けたことがありますか」という問いには、3分の1の病院が勧告を受けていた。労働時間が長いこと、割増し賃金の未払いなどが理由である。このような労働環境になる原因を塩谷は宿日直問題に求めている。
深刻なのは、医療法と労働基準法で宿日直の概念が180度異なっていることです。医療法での宿日直の意義は「1日24時間1年365日、入院患者が急変したらしっかり対応する」こと。つまり、医療法の概念では宿日直というのは急患対応のために必要です。一方、労働基準法が定める宿日直は「働いてはいけない」「寝当直」となっているのです。(17ページから18ページ)
この議論は正確ではないだろう。最大の問題は、夜間休日の救急医療を当直医におこなわせている病院がほとんどだということだ。救急病院でなくても、入院患者がいるかぎり医療法の規定で当直医が必要で、当直医は夜中に尿道カテーテルの挿入や静脈留置針の刺入、急変患者の診察や対応をおこなう。これも時間外労働なので、厳密に言えば違法で、働いた時間に対して当直手当とは別に割増し賃金を支払わなければならない。ところが、救急病院では診療業務をおこなうことを前提に医師を時間外に拘束しているのだから、違法性が高い。
救急診療をおこなうのをやめれば、地域救急が破綻するので、当然のことながらやめることはできない。では、夜間の救急診療を業務とすればいいかと言えば、その分の日勤を減らさねばならないので、日中の診療体制が破綻する。問題は労働時間の長さであるので、賃金や手当で解決できる問題ではない。唯一の解決法は医師を増やし、交代制での救急診療がおこなえるようにすることだ。これも金の問題であると言えなくもない。しかし夜間働く医師を充分に確保できる賃金を支払って、救急診療の採算が取れるかと言えば、答えは否定的である。
私が日頃感じているのは、このような病院勤務医の労働環境に対する周囲の無理解である。私の勤務先も、医師たちが精一杯頑張っているのに対し、周囲の医師会からは時間外や救急の対応をさらに充実するように求められている。言わば「後ろから弾が飛んでくる」状態なのだ。さらに労働基準監督署は労働環境の改善を求めてくるが、労基署が私たちに変わって周囲の医師会に説明したり要請したりしてくれるわけでもない。