阿部和也の人生のまとめブログ

私(阿部和也)がこれまで学んだとこ、考えたことなどをまとめていきます。読んだ本や記事をきっかけにしていることが多いのですが、読書日記ではありません。

2014年01月

顔写真が本のカバーに印刷してあることに気がつかず、『2100年の科学ライフ』の著者であるミチオ・カクの顔を見たいと思ってYouTubeにアクセスした。英語でのインタビューなので、聞き取れない部分も多かったが、オールバックにした長い白髪が印象的だった。いろいろ見たいと思ったのだが、10分の動画なら視聴に10分かかる。YouTubeには倍速再生の機能があるが、日本語ならともかく、英語では倍速再生で聞き取る自信がない(実際にやってみたが、やはり聞き取れる割合は低下する)。あれこれ見ていると、すぐに何十分も経過してしまう。時間が足りない身にとっては辛い。

その点、面白い動画を紹介してくれる記事や番組はありがたい。「日経ビジネスオンライン」に、「金曜動画ショー」という連載があり、ときどき見ている。紹介される動画は、すべて優れたものだ。ただし、動画をつぎつぎと紹介するための地の文は、いささかとってつけたような感じがあり、このブログでは1回しか取り上げたことがない。筆者の鶴野は「金曜動画ショーで紹介する動画選びもあって、平均で週100本以上の動画を見続けています」と書いている。動画を見ることが仕事の一部になっているのだろう。

2013年12月27日に配信された記事は『金曜動画アワード2013決定―必見動画を一挙公開』(http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20131226/257628/)と銘打ったもので、5本の動画を取り上げていたが、いずれもとても面白かった。だが、年が明けて、2014年1月10日に配信された『100本作って反応なし! お粗末 「子ども事故防止」サイト』(http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20140109/257989/)で紹介された動画は、昨年度ベスト5よりも群を抜いて面白かった。

標題で批判された1本は、経済産業省が所管する独立行政法人産業技術総合研究所(産総研)が公開した、乳幼児の事故を防ぐために、保護者に向けて起きやすい事故の形態を紹介する動画だ。100種の形態を列挙しているが、表形式の文章、百歩譲ってもイラストで済む解説を、動画100個を使っておこなっている。イラストであればざっと見渡せるものが、動画であればいちいちクリックして、終了まで付き合わねばならない。100枚のイラストならじっくり見ても5分で見終わるが、10秒ほどの動画なので、動画の視聴だけで正味1000秒、17分ほどかかる。最悪のインタフェースだろう。いかにも「予算を使い切るために無駄な作業を発注したら偶然目立ってしまった」という感じだ。呆れてものが言えない。もう1本放医研のものも批判されているが、これら「啓発動画」に対する作品として鶴野が紹介する2作品は、文句なく優れていた。

1本目はニュージーランド交通省による、スピードの出し過ぎに注意を呼びかける動画である(http://www.youtube.com/watch?v=bvLaTupw-hk)。道路の合流部で、猛スピードで直進してくる自動車が、脇道から出てきた自動車に衝突しそうになる。そこで現実を離れ、時間は止まり、ふたりの運転者は車を降りて会話を始める。
「息子がいるんだ。ブレーキを踏んでくれ」
「済まない。スピードが出すぎている」
辛そうに別れてそれぞれの車に戻る運転者たちの切ない表情が心に残った。

2本目はタイの保険振興財団が制作した禁煙を促す啓発動画だ(http://www.youtube.com/watch?v=ygWEPOFL1k8)。日本語字幕がついている。
ストーリーはこうです。街でタバコを吸っている大人たちに、子どもがタバコを持って近づき、「火をください」と頼みます。タバコを吸っている大人たちは驚き、「体に悪いよ」「やめた方がいい」などと断ります。子どもは聞きます。「じゃあどうして、あなたは吸っているの?」そして、大人が答えに窮していると、手紙を渡して、子どもは去っていくのです。手紙にはこうあります。「あなたは私の体を心配してくれた。あなたにも自分の体を心配してほしい」その手紙を読んだ大人たちの困惑した表情が何とも言えません。そして、誰一人として、その手紙をその場で捨てたりしない。

時間のあるときに見てほしい。鶴野は、啓発動画の重要なポイントは「それを見た人がどうすれば次の行動に移せるかという意識がきちんと反映されているかどうか」であると言う。
見ればわかりますが、子役二人とカメラ数台で、編集も簡単なものですから、制作費が大きくかかるイメージは持たないでしょう。しっかり探せば、このように制作費をおさえて伝え方を工夫している啓発動画はいくらでも見つかります。

なお、鶴野は2013年4月の連載開始以来、合計106本のネット動画を紹介したそうだ。その一覧をStorifyという一種のデータ共有サービスに掲載しているが(http://storify.com/mame3/story-12)、私の環境では先に進むほど画面の表示が遅くなり、実用的でなかった。

本書は非常に広範なデータを収集し、かつそれらを物理学者の目で吟味し、整理して書いてあるので、非常に安心して読める。だたの空想ではなく、狭い分野に限定した話でもない。文明全体と科学全体が、総体として互いに関連しつつ発展する様子が描かれている。未来に対しての認識を新たにする本だ。自分たちの孫の世代が暮らす世界だと思うと、非常に身近な未来だ。だが今日は、本書を読んでいて考えた「賛成できない点」について書きたい。

まず、エネルギーの調達法である。常温超伝導が実現すればエネルギー消費は非常に減少する。しかし、身の回りのありとあらゆるところにコンピュータチップが埋め込まれ、多くのものが自動化されれば、かなりのエネルギーを消費することは間違いない。カクはエネルギーの調達法として、核融合、太陽電池の宇宙空間への設置など、複数の方法を挙げている。

現在まで、人類が使用してきたのは、主に太陽のエネルギーである。カクが指摘するように、化石燃料も太古に太陽から与えられたエネルギーが蓄積されたものだ。再生可能エネルギーを使うにせよ、化石燃料を使うにせよ、地球が太陽から受けたエネルギーの総和は大きく変わらない。

しかし、核融合は違う。エネルギーの元になっているのは、太陽から与えられたエネルギーではなく、物質自体をエネルギーに変換したものである。また、宇宙に放射される太陽エネルギーを宇宙空間に設置した太陽電池で捉え、地球に送る場合も、地球の持つエネルギーの総和は増大する。地球は太陽からエネルギーを得て、それを宇宙空間に発散することで平衡を保っている。地球で新たにエネルギーが生み出されたり、外から多量のエネルギーを供給すれば、その平衡は失われて、地球の温度は上昇する。著者も、エネルギー消費の増加による温暖化について述べているが、その箇所は「惑星文明」の章(8章432ページ)で、「エネルギー」を扱った5章ではない。エネルギーの獲得法と副作用について、統一的な視点が欲しかった。

さらに、遺伝子操作についても異論がある。著者は、遺伝子工学が発達して、遺伝子レベルで遺伝病が治療できるようになり、遺伝子操作により特定の形質を持たせた子どもを産むことができるようになると予想する。しかし、私はそうは思わない。遺伝子の働きは複雑である。現在、個々の遺伝子は特定の蛋白と対応していることが明らかになっているが、蛋白の働きまでわかっているものは少ない。また、蛋白は、他の蛋白と相互作用しながら働くので、その詳細な追跡は困難な場合がある。

なぜ遺伝病が淘汰されずに残っているのかについて、ネシー、ウィリアムズ『病気はなぜ、あるのか』(新曜社)では、遺伝子の淘汰圧にさらされるのは生殖年齢までの形質であることのほかに、遺伝病の遺伝子が生殖に有利に働く可能性を示唆している。つまり、ある種の遺伝病の遺伝子を持った人は、魅力的であったり、子どもが多かったりするのだ。また、犬を交配して特徴が強く出るようにすると、病気になるという報告もある。人が遺伝子を操作しても、望んだ結果が得られるとは限らない。ごく簡単な遺伝子操作は可能となるものの、望んだ形質を得るような「デザイン・ベビー」は実現不可能だろうと思う。求める形質を全部揃えた赤ちゃんを作成したものの、性格が極端に悪かっただの、40歳を過ぎたら異常行動が始まっただの、操作した遺伝子とは一見何の関係もないような副作用が出てくる可能性が高いと思うからだ。

人類の文明は進歩を重ねてきたが、物理学では文明を、消費するエネルギーによって分類するのだそうだ。1964年にニコライ・カルダシェフというソ連の宇宙物理学者が初めて導入したという。
そこで彼は、理論上の三つのタイプを提案した。タイプⅠ文明は惑星規模の文明で、その惑星に降り注ぐ主星の光、およそ10の17乗ワットを消費する。タイプⅡ文明は恒星規模の文明で、主星が放つ全エネルギー、およそ10の27乗ワットを消費する。タイプⅢ文明は銀河規模の文明で、数十億個の恒星のエネルギー、およそ10の37乗ワットを消費する。(414ページ)

各タイプの消費エネルギーの間には100億倍の開きがある。この分類では、われわれの現在の文明は評価の対象にもならず、タイプ0文明となる。カール・セーガンはこの分類を一般化して、もっと精密にタイプを見積もる方法を考案し、現在の文明がタイプ0.7であると計算した。タイプⅠ文明では惑星の全エネルギー源をコントロールできるので、天候を自在に制御・変更したり、ロケットで宇宙を飛び回ることができるようになる。
現在の地球の文明がタイプⅠに到達するのにどれだけかかるかを見積もることもできる。経済の後退や拡大、好不況はあるにしても、平均的な経済成長率を当てはめると、われわれはおよそ100年以内にタイプⅠ文明に到達する計算になる。(416ページ)

タイプ0からタイプⅠへの移行のしるしを、いたるところに見ることができる。インターネットは惑星規模のコミュニケーションシステムの基盤である。英語が未来のタイプⅠ言語として急速に台頭してきている。EUの誕生を含めた経済のグローバル化もタイプⅠ経済の登場である。また、中流階級も惑星規模で台頭してきている。また、文化も惑星規模となりつつある。スポーツ、観光も惑星規模となり、環境問題も惑星規模となっている。

しかしこの移行には危険性もある。
現在のタイプ0文明からタイプⅠ文明への移行は、史上最大の移行となるかもしれない。それは、人類が今後も繁栄していくか、それともみずからの愚行によって滅びるかを決定する機会となるだろう。この移行はとても危険なものだ。われわれはまだ、泥沼から必死に這い上がるときの野蛮さをすべて持ち合わせているからである。文明のうわべを剥ぐと、原理主義や派閥主義、人種差別、不寛容などの力がまだ働いていることがわかる。人間の本性は過去10万年にわたってあまり変わっていないのだ。(434ページ)

それなのにわれわれは核兵器、化学兵器、生物兵器を持ってしまった。腹を立てた石器時代人が相手を襲ったように近代兵器で相手を襲えば、結果は世界の崩壊である。第1次、第2次世界大戦で、人類は近代戦の恐怖を充分に味わったはずだ。一歩間違えば、われわれはタイプⅠ文明に到達せず、奈落の底に落ちる。
したがって、重要なのは、この科学の剣を扱うのに必要な知恵を獲得することだ。[中略]われわれの社会では、知恵は手に入れるのが難しい。[中略]情報と違って、知恵はブログやSNS(ソーシャルネットワークサービス)などで分け与えることはできない。われわれは情報の海で溺れているので、現代社会で最も貴重なものは知恵なのである。[中略]
では知恵はどこからもたらされるのだろう? 一部は、対立する立場同士による、理屈と情報にもとづく民主的な議論から得られる。(438ページ)

彼は、民主的な議論を維持する努力が大切で、その基盤をなすものはインターネットと教育であるとする。その努力を維持すれば、タイプⅠ文明になった後にも、数世紀かけて不和は解消されていくと予想する。彼は本書を「今世紀をどのように発展させていくかを決定するにあたり、その議論を手助けする」ために書いたと述べている。

2100年にはコンピュータとインターネットが、意識されなくなるレベルにまで生活に浸透する。それでは学校はなくなり、ネットショップ以外の店もなくなるのだろうか。カクは、そのようなことはないと言う。彼が根拠とするのは「居穴人の原理」だ。映画やラジオが登場したとき、芝居がなくなると危惧する人々がいたが、そうはならなかった。テレビが登場したときもラジオや映画の終焉が予言された。しかし、われわれは現在、それらのメディアが混在した世界に暮らしている。
こうした事実の背景には、太古の祖先はつねに自分で物を見たがり、伝聞に頼らなかったという事情がある。森の中で生き延びるには、噂でなく物証に頼る必要があった。今から一世紀後も、人はまだ芝居を見たり、芸能人を追っかけたりしているだろう。そんな性質は、遠い過去から受け継いだ遺産なのである。(25ページ)

「人は、大好きなミュージシャンの無料画像とコンサートチケットのどちらかをやると言われれば、だれでも文句なしにチケットを選ぶはずだ」とカクは言う。確かに電子書籍の売れ行きは芳しくなく、紙の書籍のほうがまだまだ人気がある。このように、両方を欲しがるが、選択を迫られると「物質的な物」、「人と人との触れ合い」を求める性質を彼は「居穴人の原理」と呼んでいるのだ。人類が何百万年もかかって進化させてきた性質は、高々100年ほどでは変化しないというカクの説は、私の考えに近い。

本書で面白かったことを挙げておく。

摂取するカロリーを30%以上減らすカロリー制限で、寿命が30%延びるのだそうだ。
今までに調べられたすべての生物―酵母菌、クモ、昆虫、ウサギ、犬、最近ではサル―で、この不思議な現象が見られている。食事を制限された個体では、腫瘍や心臓病が減り、糖尿病の発症率も下がって、加齢にともなう疾患が少なくなる。実を言うとカロリー制限は、延命効果が保障されている唯一の手段だ。動物界のほぼ全体にわたり繰り返し検証され、必ず成功しているのである。最近まで、カロリー制限の研究結果が出ずにいたのは、主要な種ではヒトを含む霊長類だけだった。元からかなり長生きだからだ。(189ページ)

ただし、最近私は別のところで、痩せた人より太った人のほうが長生きだという話を聞いた。人間の一生を観察することは非常に困難なので、しばらくは結論が出ないだろう。また、ワニなど一部の爬虫類は寿命がわかっていないという話も面白かった(194ページ)。動物園で理想的な環境で飼育されると、いくらでも生きそうだと言う。

先進国で戦争が起こりにくい理由というのも面白かった。戦争で失うものが多いことも理由のひとつだが、子どもの数が少なくなっていることも大きな理由だと言う。たしかに、昔のように10人兄弟が普通であれば、軍隊に入りたい(入らなければ食べていけない)子どもも出ただろうが、現在のようにひとりかふたりしか子どもがいなければ、軍隊に入る子は出にくいだろう。だから徴兵制にするのだろうが。

ミチオ・カク『2100年の科学ライフ』(NHK出版)を読了した。カクはニューヨーク市立大学の理論物理学教授で、名前からもわかるように日系アメリカ人である。福島第二原発事故に際しても米国メディアに登場しており、YouTubeで「Michio Kaku」と検索すると、多数のビデオがアップロードされている。中には本書に関するインタビューも含まれていた。

カクはテレビ「ディスカバリー・チャンネル」のキャスターを務めるなど、科学解説の分野でも知られているそうだ。本書は、そのような取材の上にさらに取材を追加し、物理学者の目から整理して、21世紀中にわれわれの生活がどのように変わっていくかを描いた本だ。いささか突拍子もないと思える部分もあるが、20世紀初頭の人が現在の生活を想像することが困難であるように、われわれにとって21世紀末の生活は想像を超えたものであろうと考えれば、本書に書かれていることを否定することなどできない。

彼は、21世紀は「磁気の時代」になると言う。20世紀は「電気の時代」で、ラジオ、テレビ、コンピュータなど新しい技術が登場したが、21世紀になると常温超伝導が実用化され、地面から浮き上がった車がほとんどエネルギーを消費せずに走るような、磁気を中心としたテクノロジーの時代が来ると予言する。
発電所で作られる電気の最大で30パーセントが、送電中に失われる。常温超伝導体の電線ならこれを一変させられるし、それによって電気のコストと環境汚染とを大幅に抑えることができる。地球温暖化に対しても大きな効果があるかもしれない。世界の二酸化炭素排出量はエネルギーの使用量と密接に関係しており、またエネルギーの大半は摩擦に打ち勝つために浪費されているので、磁気の時代が訪れたら、エネルギー消費量と二酸化炭素排出量を恒久的に減らすことができるはずだ。(316ページ)

また、コンピュータはいたるところに使われるようになるが、非常に小さく、目立たなくなるので、かえって意識されないようになるだろうと言う。現在のシリコンチップには小型化の限界がある。現在は「コンピュータの性能はおよそ18ヶ月ごとに倍になる」というムーアの法則(30ページ)が成立しているが、著者によれば、2020年頃には限界に達するそうだ。
2020年ごろか、その後まもなくには、ムーアの法則は次第に成り立たなくなり、代わりのテクノロジーが見つからないかぎり、シリコンバレーは徐々にさびれた工業地帯になり果てるかもしれない。物理学の諸法則によれば、「シリコンの時代」はやがて幕を閉じ、「ポストシリコンの時代」に突入する。(56ページ)

後継のテクノロジーとして、著者は光コンピュータや、量子ドットコンピュータを挙げている。わかりやすい言葉で説明してあるので、雰囲気は良くわかるが、技術の詳細は無論わからない。しかし、しずれにせよ超小型化されたチップは量産され、水のように環境中に溶け込んだ存在となる。それらのコンピュータを操作するのに端末(モニタやキーボード)は不要となる。コンタクトレンズ型のビューワーにデータが表示されるようになるので、いちいち画面を見る必要がないのだ。また、コントロールも思考だけでおこなえるようになっている。

ただし、100年経ってもコンピュータは人間と同じにはなれない。コンピュータに常識を教え、価値判断ができるようにすることは、100年後の技術をもってしても困難だろうと推定されるからだ。

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