宮本太郎『生活保障—排除しない社会へ』(岩波新書)を読了した。宮本は比較政治、福祉政策を専門とする政治学者で中央大学法学部教授である。宮本は2009年の春に当時の麻生内閣のもとで設置された「安心社会実現会議」の委員であり、この本の内容は同会議の報告書の趣旨と重なることが多いという(211ページから212ページ)。だが、この本は2008年末から2009年夏にかけて執筆され、2009年秋に出版されたもので、報告書を書き直したものではなく、逆に、部分的に報告書に先行するものである。報告書の趣旨と重なることが多いということは、宮本が委員会で強い影響力を持っていたということだろう。

この本で使われている「生活保障」という語は、一般的なものではないらしい。宮本は「雇用と社会保障を包括する鍵概念(225ページ)」として使っている。生活保障の2つの機能として彼が挙げるのは、「生活資源の確保」と「生きる場の提供」である(223ページ)。この本を読んで、なぜ雇用と社会保障を一体として考えなければならないのかがよくわかった。社会保障で生活を支えても、雇用が安定しないようでは生活資源を自分で確保することが困難となり、生きがいも見つけることができない。

この本では、日本の社会保障と雇用について、歴史的経緯とともにその構造の特徴を説明している。全体が関連して描かれており、今まで事実や制度の集合体としか見えていなかった日本の社会が、すっきりと整理されて理解できた。宮本が社会を捉える捉え方は、私の今までの捉え方と大きく違っていた。宮本のように社会を構造として理解している人は、政府の政策や政党の政策案を、私とはまったく違ったしかたで理解していたのだろう。ある意味で、私と宮本とでは、同じものを見ているのに、まったく違ったものとして見ていたのではないだろうか。この本を読むことで、私の社会に対する理解が深まったように思う。

たとえばこの本では、日本ではなぜ非正規社員の賃金が低いのか、日本の生活保護の欠点は何か、などの問題に明快な解説がされている。日本の社会を見つめ直し、理解を整理することができたことは私にとってとてもよかったことだ。