やや古い記事になるが、2017年3月8日にウェブマガジン「JBpress」で配信された上昌広「東京大学の処分で見えた最高学府の凋落—臭いものには蓋、正直者は徹底懲罰…」(http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/49367)について書きたい。上は定年前に東京大学教授を辞職し、医療ガバナンス研究所を立ち上げた。

記事は3月3日に東京大学が分子細胞生物学研究所の元教授である加藤茂明ら4人を懲戒解雇相当としたことを批判したものである。上は元東京大学教授であり、福島での活動を通じて加藤と繋がりがある。だから事件の詳細に関する知識があり、加藤の人柄もよく知っている。だが、そのような立場であっても、加藤に対して同情的であったり、弁護的であったりする書き方を避けている。加藤寄りの書き方が、かえって反発を招くことをよく心得ているのだろう。

東京大学のいい加減さは、上が指摘するとおりである。指摘されている論文不正の多くは加藤ではない別の個人がしたものと推測されるが、研究室として不正を認め、責任者として辞職した加藤を、東京大学は徹底的に叩いた。それに対し、犯罪を犯した可能性すらある血液・腫瘍内科教授の黒川峰夫に対する処分はきわめて軽い。

ところが、黒川教授に対する東大の処分は、文書による厳重注意だけだ。黒川教授は、現在も東大教授の地位に留まり、大学生や若手医師を「指導」している。そして、日本血液学会では理事こそ務めていないものの、「教育委員会」の委員として学会員への教育を担当している。

日本循環器学会の代表理事に就任した小室一成も、東京大学は処分していない。2016年8月に論文不正の可能性を指摘され、現在東京大学が調査中とのことだが、前任の千葉大学ですでに研究論文の異常を指摘されている。

千葉大学の調査によれば、調査した108例のデータのうち、収縮期血圧の45%、拡張期血圧の44%に誤りがあったという。約半数のデータに誤りがあるなど、常識的に考えられない。

日本高血圧学会は昨年[2016年]8月に、この研究について紹介した2010年の論文を撤回すると発表した。

さらに記事では糖尿病・代謝内科教授の門脇孝についても、主宰する研究室の論文への不正疑惑が紹介されている。もちろん門脇は「全く根拠がなく、匿名者による誤った告発」と不正を否定している。

先にTBSの虚偽報道について書いたときに「誤りを認めた者を叩くという日本の文化風土があるのではないか」と書いたが、問題なのは認めた者を叩くことではなく、認めなかった者を許してしまう風土である。