安福は、日本における刑事弁護の難しさを繰り返し書いている。被疑者は捜査側の警察施設に周囲から隔離されて「留置」される。弁護人が毎日会うとしてもきわめて限られた時間(30分ほど)しか面会(接見)できない。

諸外国では取り調べに弁護士が立ち会うのが通常。しかしとんでもないことに、日本ではできない。供述調書は警察、検察の作文だと言っても過言ではない。(41ページ)

情報を遮断され、長時間にわたって取り調べを続けられていると、徐々に感覚が麻痺してくる。この事件でも、発生から1年経過しているのに逮捕勾留したのは、「自白」させたかったからだろう。接見した弁護士が怒るシーンがあるが(88ページ)、証拠を重視し自白に頼らないとは言うものの、実際には自白を強要するのが日本の警察だ。

一時期、電車内で痴漢呼ばわりされるとまず有罪になるとの話が広まった。現在では、混んだ電車内では男性は両手を上げるというのが半ばマナーになっている。沖縄平和運動センターの山城博治議長が微罪にもかかわらず4カ月以上にわたって勾留されているのも、海外の基準からすれば露骨な人権侵害だろう。

2013年5月22日の国連拷問禁止委員会の審査会の席上で、日本の司法制度を批判された上田秀明人権人道大使が「Shut up!」と発言した(https://www.youtube.com/watch?v=hkoQjIBA_3U)。

その席上、モーリシャスの委員はおおよそ次のように述べたという。
「弁護人に取り調べの立会がない制度だと真実でないことを真実にする。
弁護人の立会が取り調べに干渉するというのは説得力がない。
誤った自白になり、自白に頼りすぎではないか。これは、中世のものだ。
日本の刑事手続を国際水準に合わせる必要がある」(日弁連新聞 平成25年7月1日より)(267ページ)
委員会のホームページには議事録がアップされているが(http://tbinternet.ohchr.org/_layouts/treatybodyexternal/Download.aspx?symbolno=CAT%2fC%2fSR.1152&Lang=en)残念ながら発言の詳細までは確認できなかった。日本の国際的な地位低下を招く「失言」であるから、ドマー委員の発言と上田大使の発言がそのまま記載されれば、大変な恥辱だろう。