「人間の文化で最も重要な特徴は、文化が、生物学的な遺伝に加えて第二の遺伝システムとして働くということだ(240ページ)」と著者は述べる。
リチャード・ドーキンスは、考えや行動、楽曲のように、一人の人間から別の人間に広がるものを、遺伝子(gene)に似せた「ミーム(meme)」という言葉で呼び、文化的進化がミームに基づくと提唱した。(240ページ)

ヒトの社会性の根底には模倣がある。特に、動物には見られないのが「過剰模倣」だ。ヒトの子どもに、道具を使って問題箱を開けて褒美を取る方法を見せると、幼い子は手を使って箱を開けるが、年長の子になると道具を使って開ける。幼い子が道具を使うのは、手で開けにくい箱の場合だ。
このように、幼い子どもは、行動をそのまま模倣する論理的な根拠があるときは道具を使うやり方をまねる。だが、年上の子どもだけが、複雑なやり方で行動する理由がはっきりしない場合でもまねをする。ある意味では、幼い子どもの作戦のほうが賢いように見える。なぜなら、幼い子どもは最も効率的な方法をまねて問題を解くが、年上の子どもは「過剰模倣」する、つまり、余分な行動もまねるからだ。(243ページ)

この過剰模倣により、自分が理解できないことも身に付けることができる。たとえば「作法」にしても、その背景には合理的な理屈があるのだが、接し始めたときには理解できない。作法が身につき、さまざまな場面に遭遇することで、その作法の意味がわかり、合理性が理解できる。過剰模倣が「第二の遺伝システム」である文化を支えるのだろう。

その一方で、大型類人猿は過剰模倣をしないようだという(261ページ)。彼らにも文化があるようだが(たとえば芋を海水で洗うなど)、きわめて単純な文化だ。