現在の学説では「ヒトの子の成長非常に遅い。このためヒトの親はある年齢を過ぎると子を増やすのをやめ、今いる子に資源を集中するように進化を遂げた」とされているとのことだ(58ページ)。この「繁殖から育児へのシフト」は中年期に起こるのだ。したがって、中年期にはいくつかの特徴がある。

まず、食料の収集能力が高まることだ。「ヒトの食料収集能力のピークは45歳(60ページ)」なのだそうだ。
45歳の狩猟採取民は、体力、骨量、敏捷性ともピークを過ぎているが、長年にわたる実践のおかげで若者よりも高いスキルを持つ。共同体のための資源集めにかけては、いつの時代も中年こそ、一番頼りになる存在だったのだ。(60ページ)

次に「文化を引き継ぐ」という役割を担うことがある。著者は「こうした文化を引き継ぎを担う主役が中年でなくて、誰だと言うのだろう(「63ページ)」と言い、「経験を伝えたい」という思いは強迫観念に近くなると言う(64ページ)。私がこのブログを始めたもの、もしかしたら遺伝子に刻まれた、太古から引き継がれた「中年がすべき行動」への強迫観念によるものなのかもしれない。

ヒトは社会的動物であると、このブログでも繰り返し述べてきた。これは社会的動物であるという認識を確認するために繰り返したのではない。社会的動物であるということがヒトのあり方(思考パターン、行動パターン)に影響を与えていることを了解してほしいという思いから訴えたことである。また、ヒトは出生後にヒト特有の発達を遂げるということも繰り返し述べた。ヒトが他の動物ともっとも違うのは、出生した後にヒトとなるための教育を受けるということだ。ヒトは生物として出生してヒトになるのではなく、未熟児として子宮外に排出され他のヒトから教育を受けることでヒトになる。他の動物の胎児期に当たる期間が、ヒトでは体外で過ごす期間になる。非常に特殊な動物であると言っていいだろう。

著者はこのヒトの特徴をサポートするために中年が進化したのだと主張する。納得のいく説だと思う。