最後に少々苦言を呈しておきたい。説明困難なものをあえて説明しようとするとき、わかりやすくしようとして、不完全な喩えやあいまいな知識に頼ってしまうことがある。それがかえって混乱の元となる。私はいわゆる「不可知論者」で、知らないものやわからないものを頭から否定しようとは思わない。肯定も否定もしないという態度をとる。だが、著者らの記述の一部については、私も十分な知識を持ち合わせているとは言えないものの、医学の通説あるいは常識から大きく外れているため違和感を感じる。

たとえば、ナンバではない現代の歩き方に対して、以下のような情報がある。
余談になるが、歩き方や走り方は健康にも関与するという話を聞いた。ある医師によると、現代の上肢、下肢の左右交互型の歩行は、内臓への負担を増大させ、便秘の原因にもなるという。(71ページから87ページ)

しかし、こういった話は聞いたことがない。きちんとした学術雑誌に発表されているという話も聞かない。「ある医師」とはどのような医師で、その発言の根拠はどこにあるのか、明らかにされなければ信じることはできない。

また、2000年前後のプロ野球首位打者に右利き左打ちの選手が多い理由として、「利き目」の右目が投手に近いことを挙げている。
つまり右が利き目の左打者は、右目で球道を追っていることになるだろう。これは、右が利き目の右打者に比べて投球を近くで見ていることを意味し、球筋を手元までしっかり見極めることができるという利点にも繋がる。(111ページ)

本当にそうだろうか。左右の目の距離は15cmほどだ。その距離がそんなに違いを生むのだろうか。「それが生むんだよ」と言われてしまえばそれまでだが、こじつけのように思えてならない。こういった記述はこの本の価値を下げるものだと思う。

以前、私が玄米を食べていたとき、それを知ったある内科医が「玄米は体に良くない。江戸時代の平均寿命が短かったのは玄米を食べていたからだ」と言ったと人づてに聞いた。そんな話を私は聞いたことがない。現在は私はあまり玄米を食べなくなってしまったが、食べていたときもこれといって不都合なことはなかった。もともと健康なほうなので、玄米を食べたからといって特に良かったことも無いが、もちろん悪かったことも無い。医師だからといって、医学的な発言がすべて正しいわけではない。引用の際には充分注意しなければならない。