一方、地方に移住した場合はどうなのだろう。物価も安く、慢性期を支える医療施設も多いので、たしかに暮らしやすいだろう。だが、街並みに馴染みがなかったり、土地の言葉や考え方に馴染めなかったりすると、トータルな暮らしの質はかならずしも高くない。また、慢性期の病床を利用しない場合、自宅で最期を迎える場合、移住のメリットは物価の安さだけということになる。

高橋は、人口当たりの病床数が多い四国や九州では、病床の絶対数を減らす「減反政策」しかないと言う。
東京や神奈川で病院が倒産するのを見たことがありますが、率直に言って、借金が残る経営者や、再就職の難しい事務職など一部の人を除いて、誰も困りませんでした。医師や看護師は転職し、患者もどこかに移ります。四国でも病床が一気に2、3割減ると困ると思いますが、少しずつ減らしていくなら、うまくいく可能性があると考えます。

彼は率直に話していると感じる。だから揚げ足を取るつもりではない。だが、経営者や事務職の「一部の」困る人の困難が気になるし、「うまくいく可能性」という表現が非常に控えめであるのも気にかかる。やはりこれから10年は日本中で困る人が増えるのだろう。

この回のインタビューの最後で、危機回避戦略に対して医療者からの反論があったかという問いに対し、高橋が次のように答えていた。
データに対する反論はなかったです。地域包括ケアを進める人からの反論はありました。ただ、データを見る限り、(介護需要が大幅な不足が見通される)現状のまま「東京圏に住める」と言うのは無責任に感じます。

在宅医療については、しっかりとしたデータがなく、考慮していません。ただ、在宅の話をするほど、国民が成熟しているとは考えておらず、今後の課題です。

2025年を10年後に控え、彼はいったい何年経ったら国民が「成熟」すると考えているのだろうか。年寄りが増えたからといって成熟するわけではないと考えているのは明らかだ。