最近、テレビコマーシャルで「肺炎は日本人の死因の第3位です」と訴えるのを見た。高齢者に肺炎球菌ワクチンの接種を呼びかける製薬会社のキャンペーンである。営利目的ではないのだろう。このキャンペーン自体に異を唱えるつもりはまったくない。しかし、肺炎が死因の上位を占めることを強調することには違和感を覚える。

人はかならず死ぬ。死ぬと、医師が死亡診断書を書かなければならず、死因をかならず記載する。書かれた死因は統計にまとめられる(たとえば、http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suii09/deth8.html)。「老衰」を病名として認めないという考え方をする医師もいるので、統計に表れてくる結果では「老衰」の順位が下がる。そうすると高齢者の死因は「悪性新生物(がん)」「心疾患」「脳血管疾患」「肺炎」などとなる。

キャンペーンは肺炎の順位を下るのが目標なのだろうか。肺炎が死因の順位を下げるということは、がんや脳卒中が増えるということだ。だが、キャンペーンのコピーを考えた人は、当然そう考えているわけではない。また、「悪性新生物(がん)」「心疾患」「脳血管疾患」が今より増えれば、あるいは、高齢者の自殺がものすごく増えれば、肺炎の順位は下がる。もちろん、それは屁理屈だ。キャンペーンは「高齢者の肺炎を減らしたい」という単純な善意の表れなのだろう。しかし、「病気があって予防法があるのだから減らせばいい」という考えの非常に表面的なあり方が気になる。

老衰を除けば、もっとも高齢者らしい死因は肺炎だろう。高齢者の肺炎はあまり高熱にならず、苦しまないことが多い。「肺炎は高齢者の友」という言葉もあるそうだ。実は、老衰の実態は肺炎であるという説もある。キャンペーンでは「しかも、亡くなる方の約95%は、65歳以上です」と言う。当然のことだ。100%が65歳以上だともっと良い。100%が75歳以上であれば最高だろう。

キャンペーンはいろいろなところに顔を出している。Yahoo!で地図を検索しても、地図の下に「高齢者の肺炎は要注意!肺炎は日本人の死因第3位。肺炎を起こす仕組みから自治体助成までご紹介」というキャンペーンページ(http://www.haien-yobou.jp/)へのリンクが表示される。

治る肺炎まで放置するのは非倫理的だ。予防にも賛成する。繰り返すがキャンペーンに反対する意図はない。ホームページに表示されている予防策はどれも良いものだと思う。私も実践しているものもある。問題は、そのようにしても「死因としての肺炎」は減少しないということ、「高齢者の死因の上位に肺炎がある」ことは良いことだということ、そして、「肺炎は日本人の死因第3位」をキャッチコピーにした背景には「病気さえなければいくらでも生きられる」というごまかしが潜んでいるように感じられるということだ。

私の考えすぎであれば良いのだが。