医療ガバナンス学会(http://medg.jp)発行のメールマガジン「MRIC」で2015年4月22日に配信されたVol.079「プロメテウスの責め苦~あるいは専門家とは誰か? 「群馬大学医学部附属病院 腹腔鏡下肝切除術事故調査報告書」について」(http://medg.jp/mt/?p=3564)を読んで感じたことを書きたい。この記事の筆者は中村利仁で、外科医と思われるが、肩書きは「医師(休診中)」となっている。

この「事故」はすでに有名であるが、群馬大学医学部附属病院で2010年から2014年の間に、腹腔鏡による肝臓切除手術を受けた患者8人が相次いで死亡した事案を指している。2015年3月6日に最終報告書なるものが公表されたものの、その後過失認定の記述を削除する「追記」が行われている。

私は肝臓は専門外なので、きちんとした理解は困難だろうと判断して、事故報告書を読んでいない。時間が無いことも読んでいない理由のひとつだ。したがって、私はこの記事の真偽を判定することはできない。しかし、この記事が発表された経緯、言葉遣い、議論の進め方などからすると、この記事の内容は信頼に足るものではないかと考えられる。

中村は、調査報告書の作成者に基礎的な医学的知識が欠けていると断定している。報告書にICG検査に関する記述があるのだが、明らかに間違っていると言う。
この報告書の主たる筆者は、明らかに、ICG試験についての基礎的知識がありません。経験も勉強した形跡もありません。採血回数やそのタイミングを知らないことが明らかだからです。実はICG15分停滞率で10%は正常肝と考えられるのですが、筆者はそれも知りません。また、調査委員会のメンバーの誰一人として、事前に調査報告書の内容の医学的精査をしていません。精査していれば当然に気付いて修正されていたはずの間違いです。

また、中村は調査委員たちが電子カルテの検査データを直接見ていないと推測している。検査結果を直接確認すれば、ICG試験について上で指摘したような間違いを犯さないはずだからだ。中村の想像では、調査報告書の筆者は電子カルテに転記(つまりコピペ)された検査データだけを見て、他の検査データを確認することなしに報告書を書いている。
傍証があります。患者別事故調査報告書(5)の「1.1 手術までの経過について」に「手術前の主な検査所見(2014.12.6)」(この日付は中間報告書公表直前であり、杜撰な単純ミスであると考えます)に、「AST53 IU/l,ALT 37 IU/l,LDH245 IU/l」との記載があるのに、総ビリルビン値の記載がありません。術前検査データを直接見ていれば、この欠落に気付いて当然のはずです。肝切除の術前評価にICG15分停滞率が必須と考える人が、総ビリルビン値に興味を感じないというのはやはり奇妙なことだからです。

調査委員会の外部委員である神戸大学医学部附属病院特命教授・味木徹夫は初回の委員会にしか参加していなかったことが明らかになっており、その点についても群馬大学の対応が非難されている。調査委員の中には、味木以外には内視鏡外科学会の技術認定医がいない。味木は検討からも排除されたのみならず、執筆にも、公表前の医学的精査にも参加していないと推定される。

中村は、この調査報告書が、過失ありという結論を前提に作成されたものではないかと疑う。そして、外科医の目から見て「当然やるべき検討をしていない調査報告書の、何を信用に値すると考えればいいのでしょうか。もはや、事実として記載されている部分についても、疑って懸かるのが当然でしょう」と言う。

私も、この調査報告書によって医師への信頼がさらに低下し、医師の自立能力への疑念がさらに深まったと感じている。大学は過失を認めれば評価されると思ったのだろうか。そうだとすれば、彼らの知的レベルも疑わなくてはならない。