2014年9月22日に医療ポータルサイト「m3」で配信された、第56回全日本病院学会のシンポジウム「病床機能報告制度から病院の明日を探る」の報告(http://www.m3.com/iryoIshin/article/253598/)について書きたい。

このシンポジウムでは厚生労働省大臣官房審議官の武田俊彦が、2014年10月から開始する病床機能報告制度と、2015年4月から策定が開始される地域医療構想について講演した。
[武田は]「医療計画は規制色が強い制度だったが、今回の制度[地域医療構想]は関係者が集まり、自主的に考えてもらうスキーム」と理解を求めた。その上で、日本全体では高齢社会であっても、既に高齢者人口が減少している地域があり、地域の実情に合わせた医療提供体制の構築には地域医療構想とその実行が必要となり、何らかの対策を講じず、放っておけば地域の医療機関が「共倒れになる」との危機感を呈した。(角括弧[]の中は引用者が補った語句)

地域医療構想では都道府県レベルで「協議の場」を創設する。そして高度急性期、急性期、回復期、慢性期の4つの病床区分の現状を病院からの病床機能報告制度により把握したうえで、「協議の場」において関係者が話し合って将来推計をおこない、調整をおこなって、地域の医療計画を策定する。もちろん大枠は厚生労働省が設定しているし、基準も示される。

結局全国一律の病床整備になっていくのではないかとの懸念に対して武田は「病床機能報告制度では『各病院の思い』を報告するよう促し、地域医療構想の実現に向けて『関係者が集まり、競争ではなく協調という視点から議論してほしい』と述べ、決して全国一律ではなく、地域の実情に応じた提供体制を構築する重要性を強調した」とのことだ。ところが、他のシンポジストからは懐疑的な声が絶えなかったとして、本記事では、慶應義塾大学医療政策・管理教室教授の池上直己、公益社団法人星総合病院理事長の星北斗の発言を紹介している。
星氏は、1985年に医療計画が導入された際、結局は全国一律の考え方が導入された上、「駆け込み増床」が生じた経緯に触れ、「これとやり方は一緒なのだろう。制度設計としては、地域別に進めると言っても、結局は誰が決めなければいけないとなれば、制度の基準が示され、それに従っていくことになるのではないか」と指摘。関係者による「協議の場」のほか、都道府県医療審議会などが機能することも、星氏の病院のある福島県では、現実問題としてあまり期待できないとし、意見調整の難しさをにじませた。

池上氏は、四つの病床区分の定義が不明確である上、病院はお互いに補完的ではなく、競争的な関係にあるため、連携体制の構築も困難であるとし、都道府県の対応能力にも問題があることなどから、病床機能報告制度や地域医療構想の実効性そのものに疑問を投げかけた。また全国一律の診療報酬と、各地域の独自性を原則とする地域医療構想との間には不整合があること、大都市圏では医療圏と生活圏が一致しないことから、「圏域」の設定で混乱が生じることなど、さまざまな視点から、地域医療構想をはじめとする制度改革に疑問を呈した。

関係者による「協議の場」ではさまざまな判断や調整が必要とされるが、はたして病院経営者と役人の集団にそのようなことができるのかは、私も怪しむところだ。座長を務めた全日本病院協会副会長の神野正博は、標準的な数字を参照しながらジャッジしていくことになるのかと質問したが、武田は「各地域において、現状と将来的なニーズの推計にギャップがある場合に、どうするかについては、地域で考えてもらう。ジャッジはしない」と回答したという。

良く言えば地方の立場を重視した制度で、地域の医師たちの調整能力が問われる制度であるが、悪く言えば地方への丸投げである。日本全体の医療をどうするのかという議論を国家レベルでおこない、その成果を取り入れつつ地方での調整をおこなうのでなければ、混乱を招くだけではないかと懸念する。

現在、医学教育の見直し、専門医制度の見直し、特定看護師の導入など、医療供給側の態勢を根本から変えるための制度改革がおこなわれている。ところが将来の医療の具体的な姿が示されていない。現在の改革が定着するには少なくとも10年、おそらく20年から30年かかるだろう。それまではある程度の混乱は避けられないのかもしれない。しかし、医療の将来像をはっきりと提示することができれば、その混乱期間を短くすることができるし、混乱の程度も抑えることができるはずだ。厚労官僚が、バッシングを恐れず、手の内をはっきりと明かすことを望んでいる。