2014年9月21日に医療ポータルサイト「m3」で配信された、第56回全日本病院学会のシンポジウム「病院医療をプライマリ・ケア現場から考える―突きつけられた喫緊の課題から」の報告(http://www.m3.com/iryoIshin/article/253275/)について書きたい。

このシンポジウムで、慶應義塾大学の樋口美雄は高齢社会は患者減少社会であると述べた。若い世代の人口減少が急激であるため、高齢化率自体は上昇するのだが、約半数の自治体において高齢者が減少するとの予測だ。2025年を控え、高齢者の医療需要は増加すると一般にいわれているが、医療ニーズとしては日本全体では増加基調にあるものの、地方では既に減少に転じている地域もあり、特に介護ではその影響が出始めているという。樋口は地域の実情を踏まえた対策を考えていく必要性を強調した。
樋口氏は、民間有識者で組織する「日本創成会議」人口減少問題検討分科会のメンバー。同会議は今年5月、2010年から2040年までの間における「消滅可能性都市」は全自治体の約半数に上るという、ショッキングな推計を公表している。「地域によって、少子高齢化と言っても、全く違った動きをしている。各地域の問題として考えないと、さまざまな問題が解決できないと思う。また人口問題は短期的ではなく、長期的に考えていくことが必要」(樋口氏)。

確かに樋口の言うとおり、人口問題は長期的に考えていかねばならない。それは「短期的に考える」ということができない現象だからであり、将来の予測がある程度立つ現象だからでもある。もちろん出生率や死亡率は変化するので、予想は幅を持ったものになるが、その幅はそれほど大きなものではない。ただし、人々の移動による人口構成の変化は別で、予測が難しく、短期的な予測と長期的な予測が一致しない可能性がある。

樋口は、現在都市部への集中の傾向が強まっていると見ている。
2006年と2012年の比較で見ても、都市部への集中が進行していることが分かる。2006年の場合、20~29歳は、「地方から都市」よりも、「都市から地方」の人口移動が多いが、2012年には両者が逆転している。「2006年の時点では、東京の大学に進学しても、卒業後に地元に戻る人が多かったが、2012年には地方大学の卒業者が、就職のために東京に来ている。わずか6年で変わってきた」(樋口氏)。
今のまま人口移動が続くと仮定した上で推計したのが、2040年までの「消滅可能性都市」だ。人口移動は、経済雇用情勢と深く関係している。

たしかに数値的には、人口が都市に集中しているのが現状なのだろうが、たった6年で社会の態勢が大きく変わったとも思えない。これは単なる短期的な変動ではないのか。私はむしろ、数十年単位の中期的に見て、都市への人口集中の傾向があったと考えている。しかし、今後も中長期的にその傾向が続くかどうかはわからない。中長期的に続けば「消滅可能性都市」が現実に消滅することもあるだろう。しかし、都市部での生活コストの上昇や環境の悪化に堪え兼ねて、地方へと拡散して行く人々が今後増えていく可能性はないだろうか。昔は田舎に引きこもってしまうと、情報が届かなくなり、自己研鑽の機会も奪われがちであった。しかし、現在はインターネットの普及により、どこにいても情報へのアクセス制限は少ない。主要な学術雑誌はインターネット上で購読できるし、インターネットで公開される講演会やシンポジウムもある。雑誌原稿やプログラムの納品もどこからでもできる。田舎の生活コストの低さは魅力である。樋口の結論も同様のものであると思う。
もっとも、大都市部への人口移動は、世界的に見れば、必然的な動きではないという。2003年以降、最近までのトレンドを見ると、日本と同様に大都市部への集中が進行しているのはドイツ。一方で、スペイン、イングランド、米国では、大都市の人口は減る一方、中都市、大都市近郊の小都市、地方小都市の人口は増加している。樋口氏は「やり方次第で、地方の人口を増やすことは可能。働きがいのある安定した雇用の場を、いかに地方に作っていくかがカギ」と述べ、講演を締めくくった。

樋口の講演を受けて、シンポジウムの座長を務めた全日本病院協会常任理事の丸山泉は、高齢社会は患者不足だけでなく働き手不足も招くし、医療保険制度の場合には財源不足という問題も抱えると指摘した。
[丸山は]「非常に大変な局面に来ている。我々自身が先手を打って変容していかないと、全体が危機的な状況になるのではないか」と問題提起。その上で、丸山氏は、今後の医療界のキーワードとして、「細分化から統合」「業態の変化」「ダウンサイジング」などを挙げた。

丸山が「細分化から統合」「業態の変化」の必要性を提案したのは「医療行為の数が、労働力の必要量として反映される。医療行為の整理を始めないと、マンパワーが間に合わなくなるのではないか」との問題意識があるからだという。医療行為の整理とは、過剰な医療の排除(不必要な検査や治療はおこなわない)、複数の医療の統合(たとえば高血圧、糖尿病、パーキンソン病などの系統の異なる疾患を一人のかかりつけ医が統合して診療する)、それに医療の縮小だろう。現在は、不必要とまではいかない検査や治療を「念のため」おこなうことが多い。それらを排することで、医療が効率化するだけでなく、人々が本来持っている自己管理能力を高める効果があると思う。他の参加者の発言も、医療の縮小に向いている気がした。最近配信される医療行政関係の記事でも、医療の縮小への方向はトレンドであると言える。今後ますます「医療の縮小」が重要なキーワードになるだろう。