勝俣範之『「抗がん剤は効かない」の罪―ミリオンセラー近藤本への科学的反論』(毎日新聞社)について、興味を引いた点について述べておきたい。

勝俣は、日本の癌治療のレベルは専門医不足が原因で、欧米のレベルよりかなり低いと指摘する。強力な抗癌剤治療を必要とするある種の癌に対して「専門医による治療ではないために、強度の足りない抗がん剤が使われることがあります。つまり、本来なら治せる可能性のあるがんが、きちんと治されていない現状があるのです(22ページ)」とのことだ。さらに、欧米では癌化学療法は外来での施行が常識であるのに、日本では入院でおこなわれることが多い。
平成22年度の厚労省の統計では、乳がんの約半数、膵臓がんの90%、胃がん・大腸がんの70%、卵巣がんの90%は、抗がん剤治療のために1度以上入院しているというデータがあります。これは、「初回の抗がん剤治療は入院で」となるため。一部がんセンターなどの専門病院を除いては、初回入院は常識的に行われているのが日本の現状です。もともと外来で治療可能なのに、〝慣習的に〟行われているのです。初回だけならまだしも、残念なことに〝抗がん剤の間はずっと入院〟という昔ながらのやり方を続けている医師もいます。がん拠点病院でさえ、一部はそのような状況にあるようです。(31ページ)

ガイドラインの軽視も専門医が少ないためと考えている。「副作用が多いからといって、安易に減量投与される(32ページ)」ために充分な効果が得られない不完全な治療が行われる場合もあり、さらに「国立がんセンターに紹介された患者さんで、乳がん治療のガイドラインに従っていたのは、半数以下であったという研究報告(176ページ)」があるとのことだ。

化学療法の専門医が少ないのは、専門医制度を学会が作っているからだろう。学会は大学が支配し、大学は研究重視で臨床能力は決して高くない。化学療法という、まさに臨床部門の専門医である腫瘍内科医を育てる力が弱いのも当然である。

また勝俣は「腫瘍内科医は治療コーディネーター」であると自負している。
がん治療はまだまだ不確実な部分が多いため、早期がんの場合でも、手術を先にするのがいいか抗がん剤を先にするのがいいか、はたまた放射線治療をするのがいいかなど、選択肢がさまざまです。腫瘍内科医は治療コーディネーターとして、それぞれの治療のリスクとベネフィットを考慮して、患者さんと一緒に考え、最善の治療を提供していくといった作業が必要です。(35ページ)

さらに彼は、腫瘍内科医は抗癌剤を使う、使わないにかかわらず「いつ何時でも患者さんの味方であり、相談相手であり続けるべきです(144ページ)」と述べている。これは理想だろうが、数少ない腫瘍内科医は、どの病院でも多忙をきわめている。このような余裕が持てるだけの腫瘍内科医を要請することが必要なのだろうと思う。

緩和ケアの治療効果に関する話も興味深かった。「緩和ケアチームは、よろず相談的に、患者さんの生活の質を向上させるためのもろもろの相談や、治療法選択の意思決定支援に関わった(138ページ)」だけなのだが、うつ病の発症を減少させ、生存期間を2.7ヶ月延長させた。QOLを向上させた上での延長はすばらしい。

日本の治験が非常に厳しく、オーバークォリティーと言ってもいいほどだという話も関心を引いた。そのため、国内で開発された薬でも、海外での治験が先行して国内での治験が後回しになるという、笑えない話が現実に起こっている(59ページ)。しかし、現在のようにデータ捏造が頻発すると、治験の制限を緩くすることなど到底できないだろう。

最後になったが、「日本のインターネット上のがん情報で、正しい情報にヒットする確率は、50%以下である」という「驚くべき報告(161ページ)」があるそうだ。これはすべての人々に知っておいてほしい情報だ。