いささか古い記事だが、2014年1月17日配信の「ダイヤモンド・オンライン」で『東大ベンチャーがグーグルの手に―突きつけられた日本の成長課題』として、東大助教らが立ち上げたベンチャーが世界最高水準の成績を上げたにもかかわらず米国企業に買収された話が報道された(http://diamond.jp/articles/-/47246/)。実はこの話は、すでに2013年12月23日に「WIRED」が『DARPAロボコンで勝利した日本のヴェンチャー企業が、グーグルに買収された理由』として報道しており(http://wired.jp/2013/12/23/schaft-wins-darpa-robotics-challenge/)、さらに古い話だ。

米国防総省高等研究計画局(DARPA)は2013年12月20と21日に、米フロリダ州で災害対応ロボットの競技会を主催した。
DARPAが災害対応ロボットの競技会「DARPA Robotics Challenge(DRC)」を開催すると発表したのは、2012年4月のことだ。「(東日本大震災に伴う)福島第一原子力発電所の事故を受け、災害時に人が作業できない環境で働くロボットの開発を進めるため、競技会の開催を決めた」とDARPAプロジェクトマネジャーのギル・プラットは説明する。2年間で競い、途中審査を通過したチームには開発資金が最大400万ドル(約4億円)与えられるほか、14年12月の最終審査の優勝チームにはさらに200万ドル(約2億円)与えられる。(WIRED)

当時、東京大学(情報理工学)で助教としてロボットの研究をしていた中西雄飛と浦田順一は、助教の任期満了が迫っていることや研究資金を得るのが難しいことから、ベンチャー企業を立ち上げようと考えていた。そこで競技会参加のために助教を辞任しSCHAFTを設立した。彼らは国内企業、ベンチャーキャピタル、政府関係機関に資金提供を働きかけたが、国内に資金を提供する組織は無かった。DARPAから資金提供を受け(競技会には開発資金を提供されるコースもあった)、競技会ではSCHAFTのチームが大差をつけ1位になったが、2013年にグーグルにより買収されたのだ。

日本の投資会社の不甲斐なさも残念だが、この記事を読んでまず違和感を持つのが、福島第一原子力発電所の事故を受けて、災害時に働くロボットの開発を推進するための協議会を開いたのが米国国防省だということだ。確かに米国にとって他人事ではないのだろう。しかし日本は他人事ではないどころか「当事者」だ。なぜ日本政府は動かないのだろう。

日本のロボット技術は高い。ASIMOのダンスを見ると圧倒される。私は当初、福島の事故現場でもロボットが活躍するものと思っていたが、まったくその気配はない。ASIMOも、決まった動作しかできず、しかも環境を完璧に整えた上でないと動けないということをミチオ・カク『2100年の科学ライフ』で知った。決まった振りのダンスをステージで踊れても、災害現場では使えない。日本のロボット技術は高いといっても、実用化まではまだ距離があるのだ。それならば、そこにチャンスがあると考えるべきではないのか。

原子炉の廃炉や事故対策で、日本は世界をリードできる可能性がある。唯一の戦争被爆国として、放射線被爆の研究でも多くの実績を残している(ただし、成果の多くは占領軍により米国に持ち去られてしまった。その成果によりヒトゲノムプロジェクトが成立したことは記憶に新しい)。また、公害対策でも高い技術を持っている。それなのに、その強みを生かして世界の役に立とうと努力しているように思えない。

日本には古い時代のアジアの伝統や技術が数多く残っており、人文科学の分野でも高い研究レベルを維持している。さらに上記のような原子力災害、公害などの分野でも世界のトップレベルとなる可能性を持っている。これらはいずれも「足下を固める」学問であり技術である。日本は、アジアにおいて、いや世界において、昔の共同体における「長老」のような位置を占めることができるのではないかと思う。足下が危なくなったとき、過去の資産を学びたいとき、日本に行けば手がかりがあると言われるようになれるのではないか。小国日本が目指すべき方向性のひとつではないだろうか。