昨日に引き続いて医療者向けポータルサイトの「m3」からの話題を取り上げたい。2013年11月23日に社会保障審議会についての報道があった。『「協議」と「ペナルティー」で機能分化推進―医療保険部会、地域医療ビジョンの実現措置で同意』というものだ。

社会保障審議会は、厚生労働省が以前提出した案には反対していたが、今回提出された「新たな案」に対してはおおむね了承したとのことだ。
「新たな案」は、地域医療ビジョンで定めた医療機能の必要量に収斂させていくため、医療機関相互の協議の場を設置、医療機関に対して、協議の場への参加と合意事項への協力などを努力義務とする案。(1)合意を無視して、必要量に照らして過剰な医療機能の病床を増やそうとする、(2)何らかの事情により、協議が機能不全になった――などの場合に、ペナルティー的な対応を行う。(1)の場合、過剰な医療機能への転換中止を都道府県が要請したり、当該病床に限って、保険医療機関の指定を行わないことなども想定している。

いよいよ病床の再編成の具体的な像が見えてきた。各病院には様々な思惑がある。病院というのは儲かれば良いのではない(そういう病院もあることは否定しないが)。病院に勤務する医師には「やりたい医療」というものがある。例えば外科系医師であれば手術をしたい、手術の技術を向上させたいのが普通だ。急性期病院としてやってきた病院が慢性期病院に転換せざるを得なくなった場合、当然手術はできなくなる。そうなれば、その病院に勤務していた外科系医師は、手術を諦めるか、急性期病院に転職するかを選択しなければならない。手術を諦めた医師のモチベーションがどのように維持されるかは未知数である。また、転職する場合は、病院の医師数が減少することになり、慢性期病院としての運営が問題無いかどうかも考えねばならないだろう。

住民にとっても、いままで近くにあった急性期病院が慢性期病院に転換するとなれば、急性疾患の場合には遠距離の病院まで行かねばならない。それなりの覚悟が要るだろう。

今までもこのようなことは起こっている。例えば、志木市立市民病院は民間に委譲され、慢性期病院に変わるそうだ。外科系は必要度が低下するため、医師の流出がある。埼玉県の人口当たりの医師数は現在でも低いのだが、さらに低くなる可能性がある。それを見越して制度設計をしているのかが疑問だ。また、埼玉県立小児病院の移転により、現在の病院の周囲に暮らす医療必要度の高い小児が困っている。老朽化した病院の立て替えは必要だろうが、病人に取って病院までの距離は、医療の質に直結する問題だ。特に、小児病院での処置が必要なために病院の周囲に転居した慢性疾患小児患者にとっては深刻な問題だろう。これは、清瀬小児病院が八王子小児病院と合併する際にもさんざん問題になったことだ。医療資源の集中と効率化を否定することができない時代が到来したということだろうが、患者の負担も確実に増加するということをしっかり想像できていないといけない。

さらに、厚生労働省が現在提示している病床再編案はあくまで「案」であり、その効果のほどは未知数であることも念頭に置かねばならない。日本は将来急激に人口が減少することが予想されており、2025年問題といっても、30年40年続く話ではない。現在の議論はその点が抜け落ちていることが多い。
日本病院会副会長の相澤孝夫氏は、「高度急性期などの医療機能の区分がずっと続くことを想定して議論しているが、この区分が違ってくる可能性もある。医療機能の区分があたかも決まったように議論しているが、本当に大丈夫なのか」などと問題提起し、医療ニーズに併せて柔軟な対応が取れる仕組みにしておくことが必要だとした。

相澤の言うとおり、50年後、100年後を見据えた柔軟な思考が必要なのだ。