日経ビジネスオンラインの2013年10月22日号「ニュースを斬る」に山根小雪が寄稿していた『世界で広がる「再エネバッシング」の裏側―日本は先行ドイツを見習うべきか』(http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20131021/254855/)について書きたい。実は大島堅一『原発のコスト』(岩波新書)を読了したのだが、いかんせん紙メディアの情報は古い。そこでこちらを先に取り上げることにした。『原発のコスト』は明日取り上げるつもりだ。

福島原発事故のすぐ後に、ドイツは2022年までに脱原発を行うことを決めた。当時、ドイツが日本より素早く反応したことに驚いたことを記憶している。実は、ドイツではエネルギー戦略上の観点から電力供給源の分散化を既に進めており、2000年より再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)を導入していたのだった。

10月15日、ドイツの送電会社4社は、毎年の恒例行事となった、翌年(2014年)のFITにともなうサーチャージ(賦課金)の金額発表を行なった。これに先立つ10月11日に、欧州の大手電力10社のCEO(最高経営責任者)揃って会見を開き「FITは廃止すべき」と訴えたそうだ。山根によれば、9月末にはドイツの電力会社などで構成する独エネルギー水道事業者連盟(BDEW)も、FITによる負担増を指摘する声明を出している。このように、ドイツ国内に電力料金の引き上げに繋がるFITに対して批判の声があるのは事実だが、欧州の電力会社がこぞってFIT廃止を求めているからといって、制度そのものが失敗かと言えばそうではない、と山根は述べる。
2005年のドイツの電力市場は、大手電力4社が約80%のシェアを占めていた。ところが、2011年にはこれが約70%にまで下落しているのだ。シェアを奪ったのは、再エネを手かげる事業者たちだ。1社ごとの規模は決して大きくないが、FITの追い風に乗って電力市場での存在感を高めつつある。

ドイツはFITの下、再エネは一定期間、固定価格で電力会社が買い取ることが義務付けられている。ただし、買い取りに伴うコストは再エネ賦課金として広く国民が負担する。電力会社が再エネに投資すれば、新興の発電事業者と同じく、再エネによる収益を得ることができる。ところが、大手電力会社の再エネ投資はさして増えることなく、現在に至っている。

大手電力会社は既存の発電設備の稼働率を高めて収益を上げることを第一に考えていたのだ。しかし、国が脱原発を決めた以上、原発を諦めねばならない。さらに火力発電についても、世界銀行を筆頭に欧米の政府系金融機関が、二酸化炭素排出量の大きい石炭火力発電所への融資を停止または削減する方針を打ち出し始めるなど、逆風が吹いている。大手電力会社の収益は悪化しており、財政を圧迫するFITの見直しや廃止を求めているということのようだ。

一方で、ドイツ国民は経済的負担があっても再生エネルギーを支持している。
ドイツのエネルギー議論が成熟していると感じさせられるのは、電力会社がFITへの反発を強める反面、多くの国民は再エネ導入を推進することに理解を示していることだ。たとえば、ドイツの消費者団体VZBVが今年実施した調査では、82%のドイツ人が再エネに舵を斬ったエネルギー政策は正しいと答えている。先月のドイツ連邦議会選挙でも、主要政党はいずれも再エネ推進を表明した。

2000年には6%だったドイツの再生エネルギーは、現在では25%を超え、2020年には35%に到達すると予想される。さらに、再生エネルギーがもたらす産業振興や雇用効果により既に35万人以上の雇用が生まれているとしている。日本では安全保障の観点からの再生エネルギーに対する議論があまり聞かれず、FITを評価しない人も多いという調査結果がある(日本経済新聞電子版のアンケートでは、回答者の3分の2が「FITを評価しない」と答えている)。しかし、ドイツの電力会社がFITを批判しているからと言って、そのまま日本に当てはめる訳には行かない。
日本のFITは始まったばかりで、再エネ賦課金もドイツに比べると微々たるものだ。しかも、エネルギー安全保障の観点からは、日本はドイツよりもはるかに分が悪い。

ドイツは巨大な欧州の送電網によってフランスなどの近隣国から、不足があれば電力を購入することができる。島国で隣国との送電線を持たない日本に比べて、エネルギー確保の選択肢は多い。そのドイツですら、必死で再エネを増やしてきたのだ。

日本では再エネの占める割合はわずかに1.6%(2012年度)で、先進国の中では最低レベルだ。原発をやめて再エネで代替するといった極端な議論に終始するのではなく、エネルギーを確保するための選択肢を増やすことを考えるべき時期だ。

日本もFITによって再エネが現在の約1.6%から、10%、15%と増えてきて初めて、ドイツと同列に条件を議論する必要が出てくる。

山根は最後に太陽電池に偏る傾向に警鐘を鳴らし、「バランスの取れたエネルギーポートフォリオ」を作成することが大事だと述べている。安全保障としての再生エネルギーの役割について認識を深める必要があると感じた。