日経ヘルスケアに連載されている『はりきり院長夫人の七転び八起き』という匿名のコラムがある。著者は開業17年目の無床診療所で院長の夫を支えている女性とのことだ。2013年9月号は「休日当番日の招かれざる患者たち」だった。開業医の休日当番の事情について知る機会が少ないので興味深かった。

一番驚いたのは、休日診療で一般の患者を診察すると監督官庁から指導されると言うことだ。
実は開業当初、当番日に緊急性のない患者が来院した際に、「せっかく来てくださったのだから」と診療していたら、厚生局の保険指導で「こんな患者をなぜ休日に診るのか」と厳しく指摘されたことがある。

確かに休日に診療すると休日加算で点数(診察代)が高くなるから、支払い側としては「救急患者以外は診るな」と言うのだろう。しかし、実際には患者が来てしまい、診てほしいと粘られることもある。そんなときに診療を断ると、薄情だ、面倒がっていると思われる可能性が高い。場合によっては違法だと責められる。

ある休日、著者の医院に80歳代の女性から電話があり、「ここ1カ月くらい具合が良くないので、近くの診療所を受診したら、『○○が専門の先生のところで検査してもらいなさい』と言われた。すぐにそちらで診察を受けたい」とのこと。緊急性が無いと判断し、平日の受診を頼んだが「近所の先生から『すぐ行け』と言われた」の一点張り。昨日、近医の帰りに著者の診療所に寄ったが、既に閉まっていた。本日開けているなら診るべきだと主張する。
そこで、「休日のため診療費も高くなりますよ」と"切り札"を出したが、「私は後期高齢者で自己負担が少ないから、料金が高くなるのは構わない」と一歩も引かない。院長も「そこまで言うのなら、もうどうしようもない」とのことで、受診してもらうことにした。

診察したところ、やはり急を要する状態ではない。おまけに、本人の話が長くて止まらない上に、言葉の端々に「とげ」がある。軽症という診立てに対する反感があったようだ。その間、ほかの患者を待たせることになり、大いに迷惑であったとのことだ。

このようなことでは休日診療を引き受ける診療所が少なくなってしまう恐れがある。実際、私が住んでいる市では、医師会に加入しない開業医が増えている。理由は様々だが、簡単に言えば医師会に求心力が無くなったことと、医師会に入会することで生じる負担が嫌われているということだ。以前なら厚労省(厚生省)からの情報は医師会経由で通達されたため、医師会に入会していないと情報の入手が遅くなった。また、患者のいない新規開業医にとっては、医師会から割り当てられる学校検診も貴重な患者供給源だっただろう。しかし、医師会の諸係の仕事の負担が大きい(勿論ボランティアである)こと、割り振られる休日診療の負担が大きい(出勤させる看護師などの人件費などは持ち出しである)ことなどで、医師会への入会を控えているようだ。さらに、昨今の開業は市場調査をきちんとした上で立地などを決定しているので、学校検診に依存する医師はいないだろう。そうなると、何百人もを短時間で診察しなければならない学校検診も苦役でしかない。
休日診療では、「急いで受診したので持ち合わせがない」などと言って診療費を払わず、そのまま未収金となってしまうことも結構ある。健康保険組合などの保険者が、不要不急の休日受診を控えるよう、もっと"患者教育"をしてくれるとありがたいのだけれど......。

と著者は言うが、保険者に期待するには無理がある。社会全体が節度を弁えた自制的自律的な状態にならなければならない。そのために必要なのは社会全体に対する教育だろう。その教育は教え込んだり指導したりする教育ではなく、現状を知り、事実を直視するための情報提供であろう。明日は勤務先施設が主催する「市民講座」があり、私が担当する。情報提供の一助になればと思って話をするつもりだ。