アラン・ピーズ、バーバラ・ピーズ『セックスをしたがる男、愛を求める女』(主婦の友社)を読了した。アラン・ピーズ、バーバラ・ピーズは夫婦で、『話しを聞かない男、地図が読めない女』の著者である。本書は2010年刊の単行本を文庫本化したものだ。

本書は、そのタイトルや構成から受ける印象よりもずっとしっかりした本だ。所々にひとコママンガやジョークが挿絵のように挿入されており、いずれもセックスを題材としたもので、ついニヤリとさせられる。語り口も平易で、読み易く分かり易い本になっている。ところが、それが災いして、いかにも軽い本のような印象を受ける。内容は示唆に富むものなのだが、この本を誰かに紹介しても、表示を見てパラパラとめくっただけで、女性週刊誌の特集記事並みの内容と判断して、読まないことも多いのではないだろうか。

本書の内容は、繰り返しになるが、医学的、心理学的知見に基づく、大変示唆に富むものだ。参考文献リストが無いことが悔やまれるが、翻訳者のあとがきには読み易さを重視して随分工夫したとあるから、原著には参考文献リストがあるかも知れない。本書に書かれていることの真偽を検証するのは容易ではないが、私が既に知っていることと一致する記述が多く、記載は正確ではないかと推測している。

本書を読んでつくづく思ったのは、人の思考は必ず物質的な影響を受けているということだ。「思考」と言った場合、それは「脳内情報処理」とほぼ同義で理解され、人体や脳自体とも切り離された抽象的な働きであるように見なされることが普通である。しかし、そのような「純粋な」「形而上的な」「抽象的な」思考といったものは存在しないと著者らは主張しているように感じる。思考はホルモンの影響を強く受ける。

確かに落ち込んでいるときは暗い考えが浮かぶし、夜思いついた素晴らしい考えは朝になると色褪せるものだということは、良く知られた話だ。しかし、特に男女間のコミュニケーションといった、人類が誕生して以来、いや誕生する前の先祖から何百万年と続いて来た営みにおいては、人の思考や行動が、ホルモンのバランスといった体に組み込まれた仕組みから逃れられないことを著者らは示す。

本書を読んでいると、私自身や私の配偶者に当てはまることが無数に出てくる。それは、私たちが既知の普遍なパターンに従って考え、行動していることの証である。自分が何かを考えたとき、感じたとき、そこには客観性があり自分特有の真実が含まれると確信していることが多いが、実は本能として体に組み込まれたプログラムに従って(誰でも考えるように)考えたり感じたりしているに過ぎないのだ。

自分の考えが、実は(ホルモンや外界からの刺激に)「考えさせられた」ものかも知れないという謙虚な態度を維持することが大切なのだろう。そして、著者らの言う通り、「男と女は違う」ということを理解し尊重することが、家庭においても社会においても不要な軋轢を避け、円満に暮らす鍵なのだと思った。