阿部和也の人生のまとめブログ

私(阿部和也)がこれまで学んだとこ、考えたことなどをまとめていきます。読んだ本や記事をきっかけにしていることが多いのですが、読書日記ではありません。

昨日の記事を書いた後に、少しだが情報を集めてみた。宮川絢子は「Forbes」に寄稿しており、2020年6月16日に「スウェーデンの新型コロナ対策は失敗だったのか。現地の医療現場から」(https://forbesjapan.com/articles/detail/35156)として配信されている。その中に重要な注記があった。

誤解を招かないように書くと、COVID-19感染以外の疾患については、パンデミックが発生していない通常時であれば、集中治療室での治療の年齢による制限はない

昨日の記事ではまるで80歳以上のすべての高齢者が集中治療を受けられないように書いたので、ここで私からも訂正しておきたい。

スウェーデンがとった方策は間違いだとする批判が主に外国から寄せられている。特に政府の感染対策の責任者である疫学者のアンデシュ・テグネルが次のようにインタビューに答えてから、メディアではスウェーデンの政策が失敗だとする記事がつぎつぎに公表された。

[6月3日]に、感染対策を率いる政府の疫学者アンデシュ・テグネル氏が「エビデンスに基づいてやってきたが、我々の取った行動には明らかに改善すべき点がある」とインタビューに答えていました。ロックダウンをした他国と、スウェーデンの真ん中のやり方があったのではないかと言っています。海外メディアではそれを取り上げて、「スウェーデンは失敗を認めた」と報道しているようですが、ロックダウンをしない方針を失敗と考えている訳ではなく、改善の余地はあったという反省の弁にとどまるものです。

宮川によれば、スウェーデンでは基本的に専門家や政治家への信頼度は非常に高く、テグネルのインタビューの前のデータだが、「死者数が4000人を超える前は公衆衛生庁に対して約8割が支持をしており、4000人を超えても7割ぐらいはありました」という。「政権与党への支持率も高まっています」とのことだ。テグネルの顔のタトゥーを入れている若者も報道されていた(https://jp.reuters.com/video/watch/idOWjpvC5EDRN8BH7H92HU1NTBI7HTMT5)。

だが、確かに批判もある。「WIRED」に2020年6月4日に掲載された「スウェーデンの新型コロナウイルス対策が「完全なる失敗」に終わったと言える理由」(https://wired.jp/2020/06/04/sweden-coronavirus-herd-immunity/)では、「ウイルス学者でスウェーデンの新型コロナウイルス対策を声高に批判してきたリーナ・アインホルン」の発言を紹介している。

アインホルンは「公衆衛生庁と政府は批判的な声から自分たちを切り離すことにしたのです」と言う。「政府は2月初めからは一貫して、リスクを軽視する方向に歩んでいます」
[中略]
「いちばん問題なのは、ひとつの意見しかないことです。それは公衆衛生庁の見解であり、特にテグネル個人のものなのです」

この記事が前日におこなわれたテグネルのインタビューをどれほど考慮しているかはわからないが、記事の最後は次のように結ばれている。

今回の取材で話を聞いた専門家たちは、いずれも公衆衛生庁が現在の戦略に「固執」し、感染拡大の抑止に向けて役立つデータを無視していることに懸念を示していた。フランクスは「信頼できるすべてのデータと向かい合わない限り、当局はこれまでの方針を変えないでしょう」と言う。「そして死亡率が高止まりしたままの状態が続くのです」

私にはテグネルがそのように愚かなわけではなく、現実を直視し、修正すべきことは修正しようとしているように見える。今後のスウェーデンの感染者数の動向に引き続き注目していきたい。

医療ポータルサイト「m3」で2020年6月10日と11日に配信されたスウェーデンのカロリンスカ大学病院泌尿器外科の医師である宮川絢子へのインタビューについて書きたい。第1回は「日本人医師が見たスウェーデンの新型コロナ対策」(https://www.m3.com/news/iryoishin/783678)、第2回は「スウェーデンで高齢者の死亡者数が増えた背景」(https://www.m3.com/news/iryoishin/783679)である。

スウェーデンは欧州では唯一ロックダウンをせず、学校も休校にしないなど、国民の社会活動を制限しない方策をとった。その一方で感染者数、死亡者数は多い。

それでも、基本的には専門家や政治家への信頼度は非常に高いですね。死者数が4000人を超える前は公衆衛生庁に対して約8割が支持をしており、4000人を超えても7割ぐらいはありました。政権与党への支持率も高まっています。
ただ、ICUが満床になったことはなく、それは事前準備の成果ではありますが、もっと高齢者を受け入れられたはずだという批判があります。死者数が伸びたことで批判は増えています。ロックダウンをすべきという専門家グループもいます。

この背景にはスウェーデン政府が透明性を重視し、国民の信頼を勝ち得てきたということもあるだろうが、スウェーデン人の国民性もあるだろう。この期間中、偶然に宮川の77歳になる義父が脳出血を発症したというが、医師の判断で治療はしないと決められた。

発症以前の健康状態を知らない脳外科医が、初診医からの電話一本による説明で、「余病があるため健康状態は80歳以上」と判断し、手術の適応なしと決定されてしまいました。その判断は間違っていると抗議しましたが、義父は治療を受けることもなく、そのままこの世を去りました。こういった治療の線引きは、スウェーデンでは普段から行われていることで、運の悪い場合には、助かる命が失われることもあるのかもしれません。

日本人からすると一見残酷なように思えるかもしれないが、スウェーデンではこれが当たり前で、80歳以上の高齢者をICUに収容して挿管して治療するなどということはしない。逆に高齢者に濃厚な治療をするほうが残酷という考え方がある。

医療ポータルサイト「m3」で2020年6月23日に配信された玄田有史の寄稿「新型コロナがもたらした医療者への偏見、3つの仮説」(https://www.m3.com/clinical/news/789587)について書きたい。玄田は労働経済学が専門の経済学者で、自身のブログにも2020年5月24日付でこの寄稿の元となる記事「偏見」(https://genda-radio.com/archives/7331)を書いている。

玄田はCOVID-19騒ぎのなかで現れた医療者への各種の差別や批判について、なぜそのようなことが起こったのかを説明する仮説を3つ提示している。

  • 仮説その1:「見える恐怖」への標的化
  • 仮説その2:医療従事者への期待に対する反動
  • 仮説その3:公的対応への不満の「代理人」となっている可能性

第1の仮説は「生存本能に基づく『見える恐怖』への標的化」と言い換えられる。

感染症には、病気そのものという顔、不安や恐怖という顔に加え、嫌悪・偏見・差別という顔があるといいます。そのうち第三の顔について、見えない敵(ウイルス)に対する不安から、特定の対象を見える敵と見なして嫌悪の対象とし、さらに嫌悪の対象を偏見・差別し遠ざけることで、つかの間の安心を得ようとします。目に見える恐怖の対象として、ウイルスと対峙している医療関係者が識別され、差別や偏見を受けてしまうのです。

私はこの仮説がもっとも妥当であると感じている。ハンセン病やエイズに対する恐怖と同様の恐怖を感じる人が多く、その対象が病気に立ち向かっている医療者であるという認識では抑えきれない恐怖となってしまったのだろう。

第2の仮説は「医療およびその関係者への期待に対する反動」と言い換えられるもので、玄田は医療者が「日頃から高い評価を得てきたからこそ、今回の緊急事態に際し、反動が生じているように思います」としている。私は期待に対する反動だけではなく、劣等感に対する裏返しの感情としての怒りや軽蔑があるのではないかとも思う。「自粛」のストレスを晴らす気持ちもあるかもしれない。

第3の仮説は、国への不信を医療者が肩代わりしたという説だ。日本人は政府に対する信頼感が低い(そしてそれは当然のことだと思う)。

経済協力開発機構(OECD)が最近紹介した国際比較の世論調査によると、自国政府に対する信頼に関して、日本は2007年から2018年にかけて上昇したものの、他国に比べれば高くない方に属していました。別の国際比較である『世界価値観調査』を用いた分析では、政府のみならず、行政や報道機関への信頼が低いことも、日本の特徴であるといった指摘もあります。さらには他の調査に基づき、日本では政治そのものというよりは、政治家への信頼がきわめて低いことを指摘する声もあります。総じて、公的な存在に対し、日本人の視線は厳しいと考えてまちがいなさそうです。

専門家会議に対する批判の多くはこのような政府に対する不信に根ざしているとみて間違いないだろう。だが、一般の医療者に対する差別はまったく無関係だろうと思う。

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